2014年10月17日金曜日

脳科学と精神分析(推敲)(6)

情報を統合し、快不快を感じるシステムとしての脳

ここで虚心坦懐に、私たちがいたっている脳についての知識を総括してみよう。私たちは脳の大まかな構造をすでに知っている。それは大脳皮質と皮質下の様々な領域、つまり大脳辺縁系といわれる部分、そして脳幹、脊髄である。それぞれが何をやっているのかは詳しくはわかっていないが、いくつかのあらすじ、ないしはストーリーラインを知っている。
① 情報処理をするシステム 大脳皮質は身体の五感を通して得られる。それらは視床という部位で統合され、前頭葉や辺縁系により情緒的な処理が行われる。この部分の仕組みはジョーゼフ・ルドゥの業績だ。そしてそれらの情報の一部は快感中枢を通して、快、不快の味付けが行われる。この情報処理というシステムが、意識の成立と不可分であるという主張をしているのが、ジュリオ・トノーニの統合情報理論である。そしてそこからあたかも幻想のように析出してくる意識の性質を説いているのが、前野隆の「受動意識仮説」である。
② 予想するシステムである これらの体験はしかし、常に受身的に行われているわけではない。脳はそれを常に予想している。これにはずれたものが体験となり、記銘されていく。この精妙な構造を説いているのが、ジェフ・ホーキンス(考える脳、考えるコンピューター)の概念である。
    快、不快を感じるシステムである これはこれまでの快楽原則や快感中枢の話から明らかであろう。(推敲(3)、(4)ですでに述べてある。)
    更にそのような脳は幼少時より数多くの臨界期を重ね、そこで遺伝子の発動と環境との精妙なやり取りを通して形成され、成立していく。それを説いているのが、アラン・ショアやルイス・コゾリーノである。
そしてこれらを通して浮かび上がってくるのが、私が言うネットワーク的かつモジュール的な脳であり、それを通して生まれてくるのが離散的、非力動的な心の在り方である。私たちは患者の言葉をまず信じつつ、深読みをせず、様々な離散的な心の在り方に目を向け、そのトラウマに根差した病理を理解しつつ、主としてサポーティブな姿勢で、治療を行っていかなくてはならない。