2014年10月14日火曜日

脳科学と精神分析 (推敲) (3)

プラセボ効果やノセボ効果が脳に与える影響は、fMRIによりかなり詳しく調べられている。詳しい場所は省略するが、皮質の部位(DLPFC,ACC)、皮質下の部位(扁桃体、脳下垂体、脳幹)、脊髄のレベルなどで変化がみられる。それらはオピオイド拮抗薬のナロキソンで低下するということは、オピオイド系の脳内物質が関与していることが示されている。その中でも特にrACCの活動の亢進と痛みの抑制が関係しているとされる。Placebo analgesia-related changes in functional activations (on functional magnetic resonance imaging [fMRI]) have been demonstrated at multiple levels of the pain system, including cortical (dorsolateral prefrontal, rostral anterior cingulate [rACC]), subcortical (amygdala, hypothalamus, brainstem) and spinal cord levels.9,10,25,26Most were modulated by administration of naloxone, indicating participation of the OP system.25 This study also found that strength of placebo responses (as measured by pain ratings) correlated with increased connectivity between the rACC and the periaqueductal gray (PAG) areas.25 A later study found that rACC activation (fMRI) correlated with strength of placebo responses.27 A recent metaanalysis of hemodynamic studies of placebo analgesia found that increased activations were consistently identified in areas implicated in emotion-regulation and in descending modulation of pain, whereas decreased activations were identified in the pain system.28 Although nocebo hyperalgesia is much less studied, increased pain-related activation (fMRI) in the spinal cord have been reported after verbal suggestion.29 WINDOWS TO THE BRAIN   |   October 01, 2013 The Neurobiology of Placebo and Nocebo: How Expectations Influence Treatment Outcomes Donald Eknoyan, M.D.; Robin A. Hurley, M.D.; Katherine H. Taber, Ph.D. The Journal of Neuropsychiatry and Clinical Neurosciences 2013;25:vi-254.
これらの研究は、いわゆる「気のせいで痛みが和らぐ(あるいは余計痛く感じる)」という時の「気のせい」の意味を一から問い直すことになるのだ。そしてそれが示唆するのは「患者さんの主張をそのまま受け止めよ」ということである。もちろんそれは「患者さんの訴えをうのみにせよ」ということではない。そうではなく「患者さんの訴えの背後にある意味を追及せよ」という姿勢をいったん控えるべきであるということだ。

快感中枢の発見からフロイトの「快感原則」を考える
フロイト以降の脳に関する発見で私が特に注目するのが、1954年、オールズとミルナーによる快感中枢の発見である。フロイトはこの発見により、その考えを大きく変えたに違いないと思う。
 フロイトはいわゆる「快感原則」を説いたことで知られる。「精神現象の二原則に関する定式」(1911)において、無意識においては願望が幻覚的に充足され、それが快感原則であるとする。そして現実にはその充足が生じないため、現実世界においてそれを成就しようとする原則を「現実原則」としている。
ただしこの快感原則に深刻な疑問を自ら投げかけたのが、1920年の『快感原則の彼岸」であった。彼はこれを書いた動機として、快原理に反する不快で不安を呼び起こす事柄を人がどうして反復するのかという疑問を持ったのである。その意味でフロイトが当初持っていた願望充足としての無意識的活動や夢についての深刻な再考を迫られていたことは確かであろう。
私はフロイト理論を最初に読んだとき、夢は願望充足であるという定式化の意味がよくわからなかった。夢には満足体験が出てくるものの、不快体験も出てくる。幼いころ、目を覚ますと欲しかったものが枕元にある、という夢を何度も見た。もちろん本当の夢から覚めた時には枕元に何もない。その時の深刻な失望をはっきり覚えている。夢で得られた満足は覚醒した時の失望につながる。空想で何かいい出来事を考えても、そこから覚めると現実に引き戻される。このことを幼いころから何度も繰り返しながら私たちは成長していく。だから「快感原則の彼岸」でフロイトが至った結論は、むしろ常識的と言える。
オールズとミルナーによって発見された快感中枢は、実際快感を単に味わうだけの装置ではなかったことが、最近の研究でわかっている。中脳被蓋野から側坐核に至るドーパミン経路は、それがある種の夢が実現した時の快感を正確に査定するための装置としての役割を持つことがわかっている。