2014年8月3日日曜日

解離とTRP (推敲) 5

ところでこの「別人格には主張がある」という仮説は、解離性遁走に関しては、あまり当てはまらない可能性がある。遁走中の人格はしばしば人格的には白紙のような存在で、必要最小限の意識レベルで行動しているかのようであり、そうすることで何を主張したいのかは不明なのである。
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9月には、千葉県茂原の高3女子が二月間行方不明になった事件が報道されたが、御本人に会わずして何とも言えないが、やはり朦朧として最小限の判断力で徘徊していた可能性がある。ちょうど意識状態としては非常にプリミティブな古代人に戻ったかのような印象を受ける。
 解離性遁走には不明なことが多いが、おそらく人間の心にはある種の「古代人的」な人格状態モード(コンピューターで言えば、DOSモードのような)が存在し、そこへの回帰が時々原因不明ながらも起きるのではないか?古代人への回帰願望?古代人からのメッセージか?遁走状態にみられる自我の在り方は、いわゆる文化結合症候群に見られるそれにむしろかなり近い。アイヌのイム、東南アジアに見られるラター、アモックなどにかなり類似している。突然あるプリミティブな人格状態になり、急速に回復して健忘を残す。DIDによる人格交代と、遁走における人格状態の変化との違いは何か?
 おそらく人格状態の交代には、二つの要素がからんでいることになる。一つは主人格のストレスの大きさないしはストレス耐性の弱さであり、それが別人格にスイッチするきっかけとなりうる。そしてもう一つは交代人格の持つ「出たい」という衝動であろう。おそらく人格Aがストレスに耐えられず、また人格Bが出番待ちをしているというタイミングが重なれば、AからBへの移行が生じる。しかしAがストレスに耐えられない時に、Bに相当する人格がまだ存在しない、あるいは未形成な場合はどうか? おそらくそれが遁走を生むのであろう。遁走がしばしば全生活史健忘を生むのは、人格Bに相当する状態が、それ自身の生活史を持たず、いわば白紙の状態でAの人生を引き継いだ状態と仮定することが出来る。
 このことから導き出されるのは、TRPの考え方は、DIDタイプの人格交代に対してはある程度の応用が可能だが、解離性遁走に関しての応用可能性については未知数と言わざるを得ないということである。