例の本とは、Bruce Ecker , Robin Ticic , Laurel Hulley,:Unlocking the Emotional Brain: Eliminating
Symptoms at Their Roots Using Memory Reconsolidation. Routledge; 2012. すばらしい本だ。
この本のエッセンスをひとことで言えば、記憶の再編、すなわち再固定化を促すのは、その記憶が想起された際に加わるある要素であるという。それを彼らは「ミスマッチ」と呼ぶ。記憶は、思い出すと同時に何か過去とマッチしないことが起きなくては再編されない。
再固定化=再活性化+ミスマッチ
ということになる。改めて式にするまでもないか…。
再固定化についての知見が広まった当初は、記憶が呼び起されることだけで、再固定化が起きるという誤解が広まっていたし、今でもそのような誤解があるという。確かに臨床の場面でも、外傷の記憶を呼び覚ますだけで「徐反応が起きた!」と考えて、それが治療の一環だと思う臨床家は少なくないかもしれない。ところが記憶が呼びさまされた状態でミスマッチな情報や刺激を与える。一定の時間内に(それをこの本ではそれを5時間の「再固定化の時間帯 reconsolidation window」としている。P.22)それを繰り返すことで、新たな学習が成立する。
ではこのミスマッチとは何か。それは期待を裏切るような salient novelty or an outright
contradition であるという。つまり目につくような新奇さや、露骨な矛盾ということだ。たとえばネズミが一定の音を聞いて、「いよいよこれから足にショックが来るな」と身を縮めた時、ショックの代わりに温かいミルクを与えられたり、柔らかい物体で体をなでられたり、ということだろう。そして「期待したことと違うことが起きた!」というエラーメッセージが脳のどこかから出されなくてはならない。それにより徐々にネズミは「一定の音」により身をすくますことがなくなっていく。
ところでここで大事な点なのだが、この再固定化は、このネズミが記憶している「音が鳴った後に足に刺激を与えられた」という思い出(すごーく頭のいいネズミということにしよう。本当は人間の例にするべきだった)を消すことにはならないという。電気刺激を受けて、不快を覚えたことは覚えているが、身をすくませることはない。つまりは陳述的な記憶はそれとしてきちんと保存されているというわけだ。
とにかくこれを目指す治療法を本書で展開していく。