2014年7月8日火曜日

トラウマ記憶と解離の治療(推敲)8

コワ~い台風が近づいている。案外関東に来るころには温帯低気圧になったりして。

再固定化と治療への応用

これまで少し長めに再固定化についての最近の研究について振り返ったが、今後治療論に進むに当たって、少しおさらいしておきたい。最初に述べたように、これまでは記憶というのは一度形成されたら、後はそのままだと考えられる傾向にあった。たとえて言えばレコード盤の上に記録された微細な凹凸のパターンのようなものであり、そこをレコード針によりなぞって再生させることが記憶を甦らせることだという考えを持っていたのである。そこで再固定化について考える上で、このアナロジーを引っ張ってみたい。 
 最初にプラスチックのレコード盤に音が蓄えられる際、表面に細かい凹凸からなる溝が焼き付けられていく。記憶を再生するとは、それこそレコードの針を走らせ、その凹凸を感じ取り、音に再生することになる。最初のレコード盤の凹凸が同じである限り、再生される音も変わらないことになる。
さて再固定化が起きるためには、一度記憶が不安定になり、可塑的にならなくてはならない。レコード盤の比喩で言えば、レコード盤の表面のプラスティックが、逆に新たな凹凸をレコード盤に刻み込む必要がある。これを起こすにはどうしたらいいのか? 単に思い出すことでは足りないらしい。
ちなみに単に思い出すことにも用語がつけてある。それが再活性化 reactivation というそうだ。すでに出来上がったレコード盤の上を針がなぞることである。そこでレコード盤の針が表面の凹凸を拾っているときに、何かが加わるとプラスチック盤上の凹凸が書き換えられる。それがこれまでの研究では「新しい情報」ということだった。単に受動的に音を拾っていただけのレコード針が、逆に能動的にレコード盤に新たな情報を刻んでいく。
おそらくレコード盤の音を拾っている針を同時に動かすような発想を私たちは持っていなかった。そんなことがおきようとは考えていなかったのである。問題は、この「新しい情報」がいったい何なのかがわからないことなのだ。しかしそのヒントになるような治療法が提唱されつつある。

ということで「例の本」につなげていくわけだ。