2014年7月7日月曜日

トラウマ記憶と解離の治療(推敲)7

 再固定化の話、さらに続くのであるが、ネットでは4年前に富山大学で、画期的な研究が行われたことが報告されている。以下にこのサイトの記載を参考にする。(http://www.jst.go.jp/pr/announce/20100323/)
アクチビンという物質がある。動物の体内で分泌されるホルモン因子として、「さまざまな臓器において増殖や分化を制御することが知られていた」が、その脳における働きは不明であったという。ところが富山大の井ノ口馨教授の研究グループは、これが再固定化のメカニズムに関与していることを発見したという。そのためにまずまず脳内アクチビン活性を人為的に制御できる遺伝子操作マウスを世界で初めて作製したという。日本人の手でというのだから、これはすごいことだ。そして「このマウスを用いた研究により、記憶の再固定化が起きる実験条件下では、いったん強固に形成された恐怖記憶でも想起時に脳内アクチビンを阻害すると、その後、恐怖記憶が減弱すること、また消去学習が起きる実験条件下では、想起時に脳内アクチビン量を増やすと消去学習が抑制され、いったん形成された恐怖記憶が消去されにくくなることが分かりました。これらの結果から、脳内アクチビンは恐怖記憶の再固定化と消去学習の両方を制御していることを明らかにしました」という。
私なりに理解したところでは、このアクチビンとは、記憶の消去された部分や書き換えられる部分に対して働き、シナプスの新生や増強を促すことになる。これまでに紹介したアニソマイシンがこのプロセスにマイナスに働くとしたら、アクチビンとはプラスに働く、おそらくBDNF(脳由来神経栄養因子、精神科医はこちらのほうになじみがある)のようなものではないか。
この研究は2010年3月ということだから、それから4年以上たってどれほどの成果が積み重なったかは、ネット上は明らかではない(というか、不思議なことにあまりこのテーマではヒットしないのだ。もっとセンセーショナルに扱われるはずなのだが)ただアクチビンを薬物として与えることでPTSDのフラッシュバックを抑えることができるのではないか、などと臨床家の夢は膨らむのである。