話を戻して・・・・・。とにかくこれを目指す治療法を本書で展開していくというわけだ。その治療法のことを本書では「コヒアレンス療法 Coherence Therapy」と呼んでいるので、しばらくこの呼び方を用いよう。(coherence とは
一貫性、統一性、という意味だが、それは症状はその人の学習した結果からは必然的に起きてくるのであり、その学習そのものを再固定化により改変することは、症状の消失に必ずつながる、というような意味である。)本書には、結局次のような治療の手法が描かれている。全部で3段階からなるという。
1.症状を同定する
2.治療対象となる学習内容を聞き取る
3.学習内容の「DK, disconfirming knowledge 確信を崩すような知識」を見出す
本書には一つの具体例が載せられているのでそれを参考にして説明しよう。ただし私なりに編集してある。
Aさんという30代の男性がいた。彼は仕事で自己主張をするのが苦手であるという。何か言おうとしても、自分は意味のないことを主張していることになるのではないかと思い、口に出ないという。これが、1の「症状の同定」ということである。そこでセッションで、実際に職場で何かいいアイデアを出してみたことを想像してもらう。するとAさんは「ああ、自分は嫌われてしまった!」と感じられたという。治療者がもう少し聞いてみると、Aさんは「ああ、自己主張の強いあのろくでなしの父親のように自分は思われてしまっているんだ。」と言ったという。そこで2の「治療対象となる学習内容」とは、「自己主張すると、父親のようにいやな人間に思われる」ということになる。これをもう少しはっきりと言葉に直すならば、「少しでも自信を持てると、それは自己中心的で傲慢であり、父親のようになってしまう。だから自分は決して自信を持てない。」となる。この文章は治療者がAと話し合って決めたもので、Aはこれを口に出して読んだ際に、心から、というよりは体のレベルで「この通りだなあ」と感じられることが大切であるという。治療者はこれをAにインデックスカードに書かせて、次の治療セッションまでに何度も読んでみるように指示した。
次のセッションでAはこんな経験を報告したという。「昨日会社である企画が頭に浮かんだんですけれど、例により自信がなくて言えませんでした。ところが隣の同僚がその同じ企画を口に出して提案し、結構受け入れられたんです。私はその時ちょっとしたショックを受けました。」治療者はこの体験を3.のDK(学習内容の確信を崩すような知識)として使うことを決めた。
治療者はAさんに「では次のようなシーンを想像してください。あなたは仕事場の企画会議で一つのアイデアを思いつきますが、口に出さないことにします。そんなことをすると傲慢だと受け取られて嫌われるからです。すると誰かがそのアイデアを口にします。すると驚いたことに、誰もそれを傲慢とは受け入れず、そのアイデアをうけいれたのです!」このイメージトレーニングを治療者はAに何度もやってもらう。そうしてもう一枚のインデックスカードを取り出して、文章を書いてもらう。
「少しでも自信を持てると、それは自己中心的で傲慢であり、父親になってしまう。だから自分は決して自信を持てないと思っていた。ところが実際に口にすると全然そんなことはなかったのだ!」
これを次のセッションまでにAさんは暇さえあれば何度も取り出して読むということになった。
これを次のセッションまでにAさんは暇さえあれば何度も取り出して読むということになった。