この部分、少し付け加えた。
精神症状検査および人格との接触
初回面接が終了する前にできるだけ施行しておきたいのが、いわゆる精神症状検査mental status examinationである。精神症状検査とは患者の見当識、知覚、言語、感情、思考、身体症状等について一連の質問を重ねた上で、その精神の働きやその異常についてまとめあげる検査である。ただし初回面接でそれをフォーマルな形で行う時間的余裕は通常はなく、およそ約5分ほどで、これまでの面接の中ですでに確かめられた項目を除いて簡便に行うことが通常である。たとえば幻聴体験についてすでに質問を行った場合には知覚の異常について改めてたずねる必要はなく、また言語機能についてはそれまでの面接での会話の様子ですでに観察されている、などである。その意味ではこの精神症状検査は初回面接が終わる前のチェックリストというニュアンスがある。解離性障害の疑いのある患者に対するこの検査では、特に知覚や見当識の領域、たとえば幻聴、幻視の性質、記憶喪失の有無、等が重要となる。
なお精神症状検査には、実際に人格の交代の様子を観察する試みも含まれるだろう。ただしそこには決して強制力が働いてはならない。解離性の人格交代は基本的には必要な時以外はその誘導を控えるべきであるということが原則である。しかしそれは別人格が出現する用意があるにもかかわらずそれをことさら抑制することを意味はしない。精神科を受診するDIDの患者の多くが現在の生活において交代人格からの侵入を体験している以上は、初回面接でその人格との交流を試み、その主張を聞こうとすることは理にかなっていると言えるだろう。
筆者は通常次のような言葉かけを行い、交代人格との接触を試みることが多い。「今日Aさんとここまでお話ししましたが、Aさんについてよく知っていている方がいらしたら、もう少し教えていただけますか?できるだけAさんのこれまでの人生や、現在の生活の状態を知っておく必要があります。もちろん無理なら結構です。」その上でAさんに閉眼をして軽いリラクセーションへと誘導した後に、「しばらく誰かからのコンタクトを待ってみてください。」と告げる。そこで2,3分で別人格からのコンタクトが特になければ、それ以上あまり時間を取らずに、「今日はとくにどなたからも接触がありませんでしたね。結構です。」と伝え、リラクセーションを徐々に解除した後にいってセッションを終える。もし別人格からのコンタクトがあれば、丁寧に自己紹介をし、治療関係の構築に努め、最後にAさんにもどっていただく。
ただしこのような人格との接触は時には混乱や興奮を引き起こすような事態もあり得るため、他の臨床スタッフや患者自身の付添いの助けが得られる環境が必要であろう。そのような事態が予想される場合には初回面接ではそれを回避し、より治療関係が深まった時点で行っても遅くはない。(さらに同様の病態を十分扱う経験を持たない治療者の場合は、専門家のスーパービジョンも必要となろう。)
なお精神症状検査には、実際に人格の交代の様子を観察する試みも含まれるだろう。ただしそこには決して強制力が働いてはならない。解離性の人格交代は基本的には必要な時以外はその誘導を控えるべきであるということが原則である。しかしそれは別人格が出現する用意があるにもかかわらずそれをことさら抑制することを意味はしない。精神科を受診するDIDの患者の多くが現在の生活において交代人格からの侵入を体験している以上は、初回面接でその人格との交流を試み、その主張を聞こうとすることは理にかなっていると言えるだろう。
筆者は通常次のような言葉かけを行い、交代人格との接触を試みることが多い。「今日Aさんとここまでお話ししましたが、Aさんについてよく知っていている方がいらしたら、もう少し教えていただけますか?できるだけAさんのこれまでの人生や、現在の生活の状態を知っておく必要があります。もちろん無理なら結構です。」その上でAさんに閉眼をして軽いリラクセーションへと誘導した後に、「しばらく誰かからのコンタクトを待ってみてください。」と告げる。そこで2,3分で別人格からのコンタクトが特になければ、それ以上あまり時間を取らずに、「今日はとくにどなたからも接触がありませんでしたね。結構です。」と伝え、リラクセーションを徐々に解除した後にいってセッションを終える。もし別人格からのコンタクトがあれば、丁寧に自己紹介をし、治療関係の構築に努め、最後にAさんにもどっていただく。
ただしこのような人格との接触は時には混乱や興奮を引き起こすような事態もあり得るため、他の臨床スタッフや患者自身の付添いの助けが得られる環境が必要であろう。そのような事態が予想される場合には初回面接ではそれを回避し、より治療関係が深まった時点で行っても遅くはない。(さらに同様の病態を十分扱う経験を持たない治療者の場合は、専門家のスーパービジョンも必要となろう。)
人格との接触に関しては、面接者は攻撃性の強い人格との遭遇の可能性について常に配慮しておく必要がある。特に体力の旺盛な男性の患者については、攻撃性の強い人格が面接室において姿を現した際に、どの程度面接者自身がコントロールできるかを含めて常にシミュレーションする必要がある。その際はその攻撃性の強い人格が過去に身体的な暴力に及んだことはあるのか、破壊的な行動に出る可能性があるかを聞いておくことも重要である。もし懸念すべき理由があるのであれば、そのような人格がなるべく面接室で出現しないような手段を試みることも大事である。
筆者はしばしば攻撃性の強い人格とは、もし接触するとしてもメールでのみ行うことを早い段階から伝えておく。またやむを得ずそのような状況が生じる場合には、付き添いないしは家族の同席を原則としている。