2014年6月13日金曜日

解離の治療論 (58)

Paul Dell という、解離に関するアメリカのすごい学者がいる。いつか学会で見かけたが、自分の発表がない日はジーンズ姿の普通のおっさんだった。まあいいか。とにかく私の中ではショア先生と同類の博識かつ精力的な活動を続ける人だが、彼の所論を少し読んでみた。15 The Phenomena of Pathological Dissociation という、D BookP. 225237に収められたものだ。(そもそもD Bookとは何か説明していないが、解離の集大成の、百科事典みたいな本があるのだ。) そこで彼が一生懸命主張しているのが、「解離はスイッチングとか健忘障壁とかがしばしば論じられ、それが解離の根本的な症状みたいに言われているが、そうではない。病的解離の一番特徴的なのは侵入体験intrusion experience なのだ。」私も読んでいるうちにそう思えるようになってきた。私にとっては解離はスイッチングの現象であるが(そうやって授業でも患者さんにも説明している)、スイッチングの中でしばしば起きるのが、自分が「させられ体験」を持ったり、幻聴を聞いた入り、という突然の侵入体験なのである。デル先生は、DSMの診断基準は健忘にこだわりすぎているという。健忘があり、誰かがその間に完全に入れ替わっているという条件を満たさないとDIDではないというわけだ。ところが実際の解離体験というのは、侵入体験や幻聴体験などの意識化される体験に比べて、健忘を伴う体験は100分の1 だ、とさえ言っている(D Book 229)。そのうえで彼は解離症状には23の侵入体験があるといってリストアップしている。かなり徹底しているな。
出る先生の言い方をもう少し追加するとこうだ。「病的解離を主観的に体験される症状としてみると、『意識を失うこと』はそれには該当しない。敢えてそれに相当するものを挙げるとしたら『ふと、我に返る』とか『知らない間に何かをやっていたという痕跡がある』ということだ。」うーん、これもその通りだ。彼の主観的な症状に従った解離のリストアップは以下の通りになる。1.一般的な記憶の障害 2.離人体験 3.非現実体験 4.トラウマ後のフラッシュバック 5.身体化症状 6.トランス 7.子供の声 フー。後は明日だ。