2014年6月8日日曜日

解離の治療論 (53)

今日は、日本精神分析協会の年次大会、長い一日だった。

ショア先生はトラウマや解離反応における右脳の機能不全を強調するが、それなりに根拠がある。というのも人間の発達段階において、特に最初の一年でまず機能を発揮し始めるのは右脳だからだ。左脳はまだ成熟を始めていない。また左右の海馬の機能などが備わり、時系列的な記憶が備わり始めるのは、4,5歳になってからだが、だからといってそれ以前に生じたトラウマは意味を持たない、という考え方はまったく間違えであるという。赤ん坊は何も記憶ができない状態でも、すでに生理学的には赤ん坊は生存を始め、さまざまなストレスに対する対応のパターンを形成していく。そしてそれが主として右脳を首座とて生じる。そこで誤ったパターンが備わった場合は、その後の人生でその影響をこうむることになる。
 では右脳の機能がきちんと備わったことを示すのは何か。それが愛着なのである。愛着がきちんと成立することは、右脳が正常な機能を獲得したということを意味する。
 (これ以降は、心理、精神科の関係者以外には意味不明であろう。)さて解離の右脳でおきていることを知るためには、PTSDの右脳でおきていることを知る必要がある。両者ではおおむね逆のことがおきているというのが定番だからだ。PTSDのフラッシュバック時などでは、心臓の脈拍の亢進とともに、右後帯状回、右尾状核、右後頭葉、右頭頂葉が興奮するという(Lanius et al, 2004) ただしPTSDの患者が解離状態にあると考えられる(つまりトラウマ状況を描いた文章を聞くことで逆に脈拍数が下がる)場合には、右の上、中側頭回の興奮のパターンが見られたり、もっと最近では右の島および前頭葉の興奮が見られるという(Lanius, 2005)つまり幼少のトラウマは右脳の独特の興奮のパターンを作り出し、それがフラッシュバックのような過剰興奮の状態と解離のようなむしろ低下した興奮状態の際には異なる、ということだ。そして解離は右脳の情緒的な情報の統合の低下を意味しているとし、たとえば右の前帯状回こそが解離の病理の座であるという説もある。まあ右脳のどこの部分が解離の問題を引き起こしているかという犯人探しには時間がかかるとしても、(MRIを使ったりすると、いろんなところが光っちゃって、分からなくなっちゃうものなのだ。研究は難しいものだ。)とにかく右脳、愛着、トラウマ、生理的、心理的な失調というあたりはキーワードを形成しそうだ。
ということで、ショア論文、まだまだ続くぞ。