2014年6月7日土曜日

解離の治療論 (52)

 解離性障害を、「幼児期の(性的)トラウマ」によるものとしてみるのではなく、愛着の障害としてみることのメリットは大きい。そして特定の愛着パターンが解離性障害と関係するという所見は、時には理論や予想が先行しやすい解離の議論にかなり確固とした実証的な素地を与える。
タイプDの愛着とは、メアリー・エインスヲースの愛着の研究のあとを継いだもう一人のメアリー(メイン)の業績だ。ここら辺いいかな。他人が侵入するといういわゆるストレンジシチュエーションで、ストレスにさらされた子供が示す反応についての分類だが、タイプDのこともは親にしがみついたり、親に怒ったりというわかりやすいパターンを示さず、混乱してしまうのだ。ショアによれば、タイプDの特徴である混乱disorganization と失見当は、解離と同義だという。これは虐待を受けた子供の80パーセントにみられるパターンであるという。
わかりやすく言えば、このパターンを示す子供の親は虐待的であり、子供にとっては恐ろしい存在なため、子供は親に素直によっていけない。だから親に向かって後ずさったり(親に向かっていくのではなく)、親とも他人とも距離を置いて壁に向かっていったり、ということが起きるという。
この後ショア先生が書いているのは少しわかりにくいが、こんなことだ。タイプDにおいてしばしば特徴的なのは、母親の側の解離であるという。母親はまさに子供の顔を見て驚愕して解離を起こす。(こんなことあるのだろうか?)子供はそれをいわばコピーして、解離状態を作り上げる、というのだ。にわかには信じがたいが、親と子供の観察をしているとこんなことも分かるらしい。
その次に述べられていることがわかりやすい。「愛着トラウマは母子のミスアチューンメント(調律不全)により生じる。それが生じると子供は愛着ニードを表現することを注視してしまう。これがジャネが言うところの心的エネルギーの低下に相当するという。」(Allan Schore: Attachment trauma and the developing right brain: origins of pathological dissociation In D book, 107~140)このことは愛着対象や治療者を前にしても常に生じる可能性があることを意味する。解離を引き起こす要因は、自分にとってトラウマになる可能性のある存在であると同時に、自分の依存欲求を満たしてくれるという期待を抱かせる存在でもある。しかし解離の治療がこのチャンネルを介してしか進行しないということを考えると、安定した治療者患者関係は他の何にもまして解離の治療において重要視されるべきである。