2014年6月5日木曜日

解離の治療論 (50)解離性障害を診断する (4)

やたら暑いと思ってたら、今度はじめじめした梅雨か。トホホ。

続きだ。もちろん側頭葉と解離症状との関連は諸家により示唆されている。そもそも側頭葉てんかんの症状として解離症状や離人体験が記載されることも多い(永井達哉、山末英典 解離の生物学 リュミエールPp.4454)Lanius らは、解離性の症状を示す患者において、側頭葉の活動亢進が見られることを報告している(Lanius, R. A., Williamson, P. c., Boksman, K., Densmore, M., Gupta, M., Neufeld, R. W et al. (2002). Brain activation during script-driven imagery induced dissociative responses in PTSD : A functional magnetic resonance imaging investigation. Biological Psychiatry, 52, 305-311)。ただしこのことから解離性の症状を側頭葉の転換はに帰することはできないことは、抗てんかん薬が一般的には解離性症状の治療として有効でないことを示している。

順番が逆になった。次に鑑別診断として境界パーソナリティ障害について論じなくてはならない。
境界パーソナリティ障害(BPD

BPDが解離性障害と混同される二つの原因がある。一つは診断ないしは概念上の混乱である。かつてHermanは複合型PTSDの概念を提出した中で、従来のBPDと呼ばれた障害を基本的にはトラウマに由来するものとしてとらえた。現代の解離概念を代表する構造的解離理論においても、van der Hart らはBPDを二次的な構造的解離ととらえている。これらの理論に従えば、BPDはトラウマ関連疾患ということになる。DSMに見られるBPDの第10項目である「一過性の解離症状」という記述も、このような見方の根拠の一部をなしているといっていいだろう。またBPDと解離性障害には、ともに対人関係の極端なあり方や自傷行為等などの症状の共通性があり、それが両者が不用意に混同されるもう一つの原因となる。
 ところが松本や岡野(自分のことだ!!)も指摘するように、両者には根本的な違いがある。それは端的に何を分裂split させるかという問題である。BPDと異なり、解離性障害の患者は怒りや恐怖を投影や外在化することで対象にぶつけることが出来ないという病理である。筆者の臨床体験としても、BPDの患者がしばしば治療関係を安定した形で持つことが難しいのに対し、解離性障害においては治療関係を大切にし、むしろ治療者に気を使いすぎるという特徴がみられる。ちなみに筆者は便宜的にBPDの病理を一つのスペクトラムとして理解し、解離性障害の患者が時にどの程度のBPD性を発揮しうるか、という観点を持っている。このような見方は、BPDか解離性か、といった二者択一的な診断を患者にあてはまる必要から治療者を開放してくれるであろう。