また「オトナの事情」が舞い込んだ。ある少し教科書的な文章を9月までに書かないと人に迷惑がかかる、というものである。今書いていることに関連するので引き受けた。題して「解離を臨床でいかに扱うか?」何かあまり変わらないなあ。というか「解離の治療論」と結局同じじゃないかー!
ところでいくつかの基礎的な文章はもうすでに用意できている。読者は絶対覚えていないだろうが、去年の夏ごろに「解離性障害の初回面接」というのを書いた。あれはあれで「オトナの事情だったわけだが、4月に発刊になるある専門誌に掲載されることになっている。あれもこのブログでお世話になって掛けたものだ。最終盤をお披露目していなかったので、ここで一応紹介する。
<臨●精●●学 2014年4月号 掲載予定>
解離性(転換性)障害の初回面接 の草稿
解離性障害の初回面接は、患者が「解離性障害(の疑い)」として紹介されてきた場合と、そうでない場合、例えば統合失調症や境界性パーソナリティ障害の診断のもとに紹介されて来た場合とでは多少なりとも事情が異なる。本稿は「解離性障害の可能性があると思われる患者について、その鑑別診断を考慮しつつ初回の面接を行う」という設定を考えて論じることにする。
最初に「大変でしたね」という気持ちを伝える
解離性障害の初回面接では、患者はしばしば面接者を警戒し、自分の訴えをどこまで理解してもらえるかについて疑いの念を持っている可能性がある。患者にはまず丁寧にあいさつをし、初診に訪れるに至ったことへの敬意を表したい。多くの場合、患者はすでに別の精神科医と出会い、解離性障害とは異なる診断を受けている。患者が持参する「お薬手帳」に貼られた薬のシールがそれをある程度示唆するであろう。彼らの多くは過去に統合失調症やその他の精神病を疑った精神科医から、抗精神病薬(リスパダール、ジプレキサなど)の処方を受けている。またそのような経験を持たなかった患者も、その症状により周囲から様々な誤解や偏見の対象となっていた可能性を面接者は念頭に置かなくてはならない。
患者が誤解を受けやすい理由は、解離性(転換性)の症状の性質そのものにある。心の内部に人格が複数存在すること、一定期間の記憶を失い、その間別の人格としての体験が成立すること、体の諸機能が突然失われて、また回復することなどの症状は、私たちが常識的な範囲で理解する心身のあり方とは大きく異なる。そのためにあたかも本人が意図的にそれらの症状を作り出したりコントロールしたりしているのではないか、という誤解を生みやすい。そして患者はそのような体験を何度も繰り返す過程で、医療関係者にすら症状を隠すようになり、それが更なる誤解や誤診を招くきっかけとなるのだ。
解離を疑われる患者にも、それ以外の患者にも、筆者は初診の面接においてはまず「主訴」にあたる部分を聞くことにしている。もちろん本人の年齢、身分(学生か、会社勤務か、など)、居住状況(独居か、既婚か、実家の家族と一緒か、など)、などの基本的な情報をまず聞いておくことが賢明かもしれないが、その次に訊ねることは、この「主訴」である。つまり本人が現在一番困っていること、不都合に感じていることに焦点づけて面接を開始するわけであるが、もちろん次のような反応もあるだろう。「私はとくに困っていることはありません。お母さんから言われてきました。」その場合には「ご本人の訴えは特になし」ということになるが、その際に患者に「お母さんはあなたのどのようなことをご心配なさっていると思うのですか?」という質問を向けることはさまざまな意味で妥当なものといえるだろう。
筆者の経験では、解離性障害の「主訴」には、「物事を覚えられない」「過去の記憶が抜け落ちている」などの記憶に関するものが多い。それに比べて「人の声が聞こえてくる」「頭の中にいろいろな人のイメージが浮かぶ」などの幻覚に関する訴えは、少なくとも主訴としてはあまり聞くことがない。それは前者は患者が実際の生活で困っていることであるのに対し、後者は本人がかなり昔から自然に体験しているために、それを不自然と思っていない場合が多いからであろう。
患者が誤解を受けやすい理由は、解離性(転換性)の症状の性質そのものにある。心の内部に人格が複数存在すること、一定期間の記憶を失い、その間別の人格としての体験が成立すること、体の諸機能が突然失われて、また回復することなどの症状は、私たちが常識的な範囲で理解する心身のあり方とは大きく異なる。そのためにあたかも本人が意図的にそれらの症状を作り出したりコントロールしたりしているのではないか、という誤解を生みやすい。そして患者はそのような体験を何度も繰り返す過程で、医療関係者にすら症状を隠すようになり、それが更なる誤解や誤診を招くきっかけとなるのだ。
解離を疑われる患者にも、それ以外の患者にも、筆者は初診の面接においてはまず「主訴」にあたる部分を聞くことにしている。もちろん本人の年齢、身分(学生か、会社勤務か、など)、居住状況(独居か、既婚か、実家の家族と一緒か、など)、などの基本的な情報をまず聞いておくことが賢明かもしれないが、その次に訊ねることは、この「主訴」である。つまり本人が現在一番困っていること、不都合に感じていることに焦点づけて面接を開始するわけであるが、もちろん次のような反応もあるだろう。「私はとくに困っていることはありません。お母さんから言われてきました。」その場合には「ご本人の訴えは特になし」ということになるが、その際に患者に「お母さんはあなたのどのようなことをご心配なさっていると思うのですか?」という質問を向けることはさまざまな意味で妥当なものといえるだろう。
筆者の経験では、解離性障害の「主訴」には、「物事を覚えられない」「過去の記憶が抜け落ちている」などの記憶に関するものが多い。それに比べて「人の声が聞こえてくる」「頭の中にいろいろな人のイメージが浮かぶ」などの幻覚に関する訴えは、少なくとも主訴としてはあまり聞くことがない。それは前者は患者が実際の生活で困っていることであるのに対し、後者は本人がかなり昔から自然に体験しているために、それを不自然と思っていない場合が多いからであろう。
現病歴を聞く
解離性障害の現病歴は、社会生活歴との境目があまり明確でないことが多い。通常は現病歴は発症の時期あるいはその前駆期にさかのぼって記載されるが、特にDID(解離性同一性障害)の場合は、物心つく前にその兆候が見られている可能性が高い。たとえ明確な人格の交代現象が思春期以降に頻発するようになったとしても、誰かの声を頭の中で聴いていたという体験や、実在しないはずの人影が視野の周辺部に見え隠れしていた、などの記憶が幼児期にすでにあったというケースは少なくない。ただし通常は解離性障害の現病歴の開始を、日常生活に支障をきたすような解離症状が始まった時点におくのが適当である。
もちろん解離性障害の患者の中には、幼少時の解離症状が明確には見出せない場合もあり、その際は現病歴の開始時を特定するのもそれだけ容易になる。たとえば解離性遁走の場合は突然の出奔が生じた時が事実上の発症時期とみなせるだろう。また転換性障害についても身体症状の開始以前に特に解離性の症状が見られない場合も多い。ただしDIDの場合には、遁走や転換症状はその症状の広いスペクトラムの一部として頻繁に生じることがむしろ通例である。
解離性障害の現病歴を聴取する際特に注意を向けるべきいくつかの点を挙げて論じよう。それらは記憶の欠損/交代人格の存在/自傷行為/種々の転換症状、などである。
記憶の欠損の有無を聞くことは、精神科の初診面接ではとかく忘れられがちであるが、解離性障害の場合には極めて重要である。記憶の欠損が解離性障害の診断にとって必須の条件というわけではないが、同障害の存在の重要な決め手となる。人格の交代現象や人格状態の変化は、しばしば記憶の欠損を伴い、患者の多くはそれに当惑したり不都合を感じたりする。しかしその記憶の欠損を認める代わりに、患者は多くは「もの忘れ」が酷かったり注意が散漫だったりすると思われるほうを選ぶかもしれない。初診の際も患者は問われない限りは記憶の欠損に触れない傾向にある。面接者の尋ね方としては、「一定期間の事が思い出せない、ということが起きますか? 例えば昨日お昼から夕方までとか。あるいは小学校の低学年の事が思い出せない、とか。」等が適当であろう。
交代人格の存在に関する聴取はより慎重さを要する。多くのDIDの患者が治療場面を警戒し、交代人格の存在を安易に知られることを望まないため、初診の段階ではその存在を探る質問には否定的な答えしか示さない可能性もある。他方では初診の際に、主人格が来院を恐れたり警戒したりするために、かわりに交代人格がすでに登場している場合もある。診察する側としては、特にDIDが最初から強く疑われている場合には、つねに交代人格が背後で耳を澄ませている可能性を考慮し、彼らに敬意を払いつつ初診面接を進めなくてはならない。「ご自分の中に別の存在を感じることがありますか?」「頭の中に別の自分からの声が聞こえてきたりすることがありますか?」等はいずれも妥当な質問の仕方といえるだろう。
もちろん解離性障害の患者の中には、幼少時の解離症状が明確には見出せない場合もあり、その際は現病歴の開始時を特定するのもそれだけ容易になる。たとえば解離性遁走の場合は突然の出奔が生じた時が事実上の発症時期とみなせるだろう。また転換性障害についても身体症状の開始以前に特に解離性の症状が見られない場合も多い。ただしDIDの場合には、遁走や転換症状はその症状の広いスペクトラムの一部として頻繁に生じることがむしろ通例である。
解離性障害の現病歴を聴取する際特に注意を向けるべきいくつかの点を挙げて論じよう。それらは記憶の欠損/交代人格の存在/自傷行為/種々の転換症状、などである。
記憶の欠損の有無を聞くことは、精神科の初診面接ではとかく忘れられがちであるが、解離性障害の場合には極めて重要である。記憶の欠損が解離性障害の診断にとって必須の条件というわけではないが、同障害の存在の重要な決め手となる。人格の交代現象や人格状態の変化は、しばしば記憶の欠損を伴い、患者の多くはそれに当惑したり不都合を感じたりする。しかしその記憶の欠損を認める代わりに、患者は多くは「もの忘れ」が酷かったり注意が散漫だったりすると思われるほうを選ぶかもしれない。初診の際も患者は問われない限りは記憶の欠損に触れない傾向にある。面接者の尋ね方としては、「一定期間の事が思い出せない、ということが起きますか? 例えば昨日お昼から夕方までとか。あるいは小学校の低学年の事が思い出せない、とか。」等が適当であろう。
交代人格の存在に関する聴取はより慎重さを要する。多くのDIDの患者が治療場面を警戒し、交代人格の存在を安易に知られることを望まないため、初診の段階ではその存在を探る質問には否定的な答えしか示さない可能性もある。他方では初診の際に、主人格が来院を恐れたり警戒したりするために、かわりに交代人格がすでに登場している場合もある。診察する側としては、特にDIDが最初から強く疑われている場合には、つねに交代人格が背後で耳を澄ませている可能性を考慮し、彼らに敬意を払いつつ初診面接を進めなくてはならない。「ご自分の中に別の存在を感じることがありますか?」「頭の中に別の自分からの声が聞こえてきたりすることがありますか?」等はいずれも妥当な質問の仕方といえるだろう。
自傷行為については、解離性障害にしばしば伴う傾向があるために特に重要な質問項目として掲げておきたい。「カッティング」(リストカットなど自傷の意図を持って刃物で身体に傷を付ける行為の総称)による自傷行為は、それにより解離状態に入ることを目的としたものと、解離症状、特に離人体験から抜け出すことを目的でとしたものに大別される(岡野、2007)。またいずれの目的にせよ、そこに痛覚の鈍磨はほぼ必ず生じており、その意味ではカッティングは知覚脱失という意味での転換症状の存在を前提としていることになり、それだけ他の解離体験も有している可能性が高くなる。ただしカッティングが解離症状や過去のトラウマ体験に直接関係していない場合も当然ながらある。そのことはその他のimpulsive-compulsive behaviors (衝動的強迫的行動)についてもいえることである。
転換性障害を疑わせる身体症状の有無にも注意を払いたい。転換症状はその他の解離症状に伴って、あるいはそれらとは独立してみらえる場合が多い。症状が急速に生じてやみ、内科的な身体所見がみられない場合などはその可能性がある。
解離性障害が強く疑われる患者には、それ以外にも一連の体験の有無、たとえば鏡で自分を見ても自分ではない気がすることがあるか否か、自分が所有している覚えのないものを持っていることがあるか否か、などのより詳細な質問を重ねることが筆者は多い。これらはDES(解離体験尺度)に出てくる質問でもあるが、それぞれが解離症状の様々な側面を捉えたものである。逆にこれらの質問に対して肯定的な答えをする人ほど、DESの点数が高くなることになる。(DESは簡便な尺度であり、待ち時間等を利用して患者に施行することは、解離性障害の診断にとって大きな情報を与えてくれる。)
それ以外にも患者が知覚の異常、特に幻聴や幻視についての体験を持つかについても重要な情報となる。その際幻聴のもととなる人をある程度同定できることはそれが解離性のものであることを知る上で比較的重要な手がかりとなる。それが自分の中の別人格であり、名前も明らかになる場合には、それはおそらく高い確率で解離性のものといえるであろう。また幻視は統合失調症ではあまり見られないものであるが、解離性の幻覚としてはしばしば報告される。それがIC(空想上の友達)のものである場合、その姿は視覚像として体験される場合もそうでない場合もある。またそれが実在するぬいぐるみや人形などの姿を借りるということもしばしば報告される。
転換性障害を疑わせる身体症状の有無にも注意を払いたい。転換症状はその他の解離症状に伴って、あるいはそれらとは独立してみらえる場合が多い。症状が急速に生じてやみ、内科的な身体所見がみられない場合などはその可能性がある。
解離性障害が強く疑われる患者には、それ以外にも一連の体験の有無、たとえば鏡で自分を見ても自分ではない気がすることがあるか否か、自分が所有している覚えのないものを持っていることがあるか否か、などのより詳細な質問を重ねることが筆者は多い。これらはDES(解離体験尺度)に出てくる質問でもあるが、それぞれが解離症状の様々な側面を捉えたものである。逆にこれらの質問に対して肯定的な答えをする人ほど、DESの点数が高くなることになる。(DESは簡便な尺度であり、待ち時間等を利用して患者に施行することは、解離性障害の診断にとって大きな情報を与えてくれる。)
それ以外にも患者が知覚の異常、特に幻聴や幻視についての体験を持つかについても重要な情報となる。その際幻聴のもととなる人をある程度同定できることはそれが解離性のものであることを知る上で比較的重要な手がかりとなる。それが自分の中の別人格であり、名前も明らかになる場合には、それはおそらく高い確率で解離性のものといえるであろう。また幻視は統合失調症ではあまり見られないものであるが、解離性の幻覚としてはしばしば報告される。それがIC(空想上の友達)のものである場合、その姿は視覚像として体験される場合もそうでない場合もある。またそれが実在するぬいぐるみや人形などの姿を借りるということもしばしば報告される。
生育歴と社会生活歴
解離性障害の多くに過去のトラウマやストレスの既往が見られる以上、その聴取も重要となる。特にDIDのように解離症状がきわめて精緻化されている場合、その症状形成に幼少時の体験が深く関連していることは必定である。ただしトラウマの存在は非常にセンシティブな問題を含むため、その聞き取りの仕方には言うまでもなく慎重さを要する。特にDIDにおいて幼少時の性的トラウマをはじめから想定し、いわば虐待者の犯人探しのような姿勢を持つことは決して勧められない。またDIDにおいて面接場面に登場している人格が過去のトラウマを想起できない場合もあり、さらには家族の面接からも幼少時の明白なトラウマを存在を聞き出せないこともまれではない。また幼児期に何が甚大なインパクトを持ったストレスとして体験されるかは子供により非常に大きく異なる。繰り返される深刻な夫婦喧嘩や極度に厳しいしつけが事実上のトラウマとして働くこともしばしばある。
成育歴の聴取の際には、そのほかのトラウマやストレスに関係した事柄、たとえば家族内の葛藤や別離、厳しいしつけ、転居、学校でのいじめ、疾病や外傷の体験等も重要となる。またその当時からICが存在した可能性についても聞いておきたい。
筆者にとって最近特に気になるのは、患者の幼少時ないし思春期の海外での体験である。ホームステイ先でホストファミリーから性的トラウマを受けるのケースは非常に多く、またそれを本人が一人で胸にしまっていたという話も頻繁に聞くのである。幼少時に安全な社会的環境で過ごすことは、小児がトラウマや解離性障害から身を守る上で極めて大切なことである。
成育歴の聴取の際には、そのほかのトラウマやストレスに関係した事柄、たとえば家族内の葛藤や別離、厳しいしつけ、転居、学校でのいじめ、疾病や外傷の体験等も重要となる。またその当時からICが存在した可能性についても聞いておきたい。
筆者にとって最近特に気になるのは、患者の幼少時ないし思春期の海外での体験である。ホームステイ先でホストファミリーから性的トラウマを受けるのケースは非常に多く、またそれを本人が一人で胸にしまっていたという話も頻繁に聞くのである。幼少時に安全な社会的環境で過ごすことは、小児がトラウマや解離性障害から身を守る上で極めて大切なことである。
精神症状検査
初回面接が終了する前にできるだけ施行しておきたいのが、いわゆる精神症状検査mental status examinationである。精神症状検査とは患者の見当識、知覚、言語、感情、思考、身体症状等について一連の質問を重ねた上で、その精神の働きやその異常についてまとめあげる検査である。ただし初回面接でそれをフォーマルな形で行う時間的余裕は通常はなく、およそ約5分ほどで、これまでの面接の中ですでに確かめられた項目を除いて簡便に行うことが通常である。たとえば幻聴体験についてすでに質問を行った場合には知覚の異常について改めてたずねる必要はなく、また言語機能についてはそれまでの面接での会話の様子ですでに観察されている、などである。その意味ではこの精神症状検査は初回面接が終わる前のチェックリストというニュアンスがある。解離性障害の疑いのある患者に対するこの検査では、特に知覚や見当識の領域、たとえば幻聴、幻視の性質、記憶喪失の有無、等が重要となる。
なお精神症状検査には、実際に人格の交代の様子を観察する試みも含まれるだろう。ただしそこには決して強制力が働いてはならない。解離性の人格交代は基本的には必要な時以外はその誘導を控えるべきであるということが原則である。しかしまたそれは別人格が出現する用意があるにもかかわらずそれをことさら抑制することとは異なる。精神科を受診するDIDの患者の多くが現在の生活において交代人格からの侵入を体験している以上は、初回面接でその人格との交流を試みることは理にかなっていると言えるだろう。
筆者は通常次のような言葉かけを行い、交代人格とのコンタクトを試みることが多い。「今日Aさんとここまでお話ししましたが、Aさんについてよく知っていている方がいらしたら、もう少し教えていただけますか?できるだけAさんのご様子を知っておく必要があります。もちろん無理なら結構です。」その上でAさんに閉眼をして軽いリラクセーションへと誘導し、「しばらく誰かからのコンタクトを待ってみてください。」そこで2,3分で別人格からのコンタクトが特になければ、それ以上あまり時間を取らずに、「今日はとくにどなたからも接触がありませんでしたね。結構です。」といってセッションを終える。もし別人格からのコンタクトがあれば、丁寧に自己紹介をし、治療関係の構築に努め、最後にAさんにもどっていただく。
ただしこのような人格との接触は時には混乱や興奮を引き起こすような事態もあり得るため、他の臨床スタッフや患者自身の付添いの助けが得られる環境が必要であろう。そのような事態が予想される場合には初回面接ではそれを回避し、より治療関係が深まった時点で行っても遅くはない。(さらに同様の病態を十分扱う経験を持たない治療者の場合は、専門家のスーパービジョンも必要となろう。)
なお精神症状検査には、実際に人格の交代の様子を観察する試みも含まれるだろう。ただしそこには決して強制力が働いてはならない。解離性の人格交代は基本的には必要な時以外はその誘導を控えるべきであるということが原則である。しかしまたそれは別人格が出現する用意があるにもかかわらずそれをことさら抑制することとは異なる。精神科を受診するDIDの患者の多くが現在の生活において交代人格からの侵入を体験している以上は、初回面接でその人格との交流を試みることは理にかなっていると言えるだろう。
筆者は通常次のような言葉かけを行い、交代人格とのコンタクトを試みることが多い。「今日Aさんとここまでお話ししましたが、Aさんについてよく知っていている方がいらしたら、もう少し教えていただけますか?できるだけAさんのご様子を知っておく必要があります。もちろん無理なら結構です。」その上でAさんに閉眼をして軽いリラクセーションへと誘導し、「しばらく誰かからのコンタクトを待ってみてください。」そこで2,3分で別人格からのコンタクトが特になければ、それ以上あまり時間を取らずに、「今日はとくにどなたからも接触がありませんでしたね。結構です。」といってセッションを終える。もし別人格からのコンタクトがあれば、丁寧に自己紹介をし、治療関係の構築に努め、最後にAさんにもどっていただく。
ただしこのような人格との接触は時には混乱や興奮を引き起こすような事態もあり得るため、他の臨床スタッフや患者自身の付添いの助けが得られる環境が必要であろう。そのような事態が予想される場合には初回面接ではそれを回避し、より治療関係が深まった時点で行っても遅くはない。(さらに同様の病態を十分扱う経験を持たない治療者の場合は、専門家のスーパービジョンも必要となろう。)
診断および鑑別診断
解離性障害にはDIDを筆頭にいくつかの種類があるが、内部にいくつかの人格の存在がうかがわれる際にも、それらの明確なプロフィール(性別、年齢、記憶、性格傾向)が確認できない段階では、ほかに分類されない解離性障害(DDNOS)としておくことが適当である。また解離性の健忘や遁走を主たる症状とする患者についても、その背後にDIDが存在する可能性を考慮しつつも、初診段階では聴取できた内容に基づく仮の診断に留めるべきであろう。
なお解離性障害の併存症や鑑別診断として問題になる傾向にあるのは以下の精神科疾患である。統合失調症、BPD(境界パーソナリティ障害)、躁うつ病、うつ病、てんかん虚偽性障害、詐病、など。これらの診断は必ずしも初診面接で下されなくても、面接者は常に念頭に置いたうえで後の治療に臨むべきである。
なお解離性障害の併存症や鑑別診断として問題になる傾向にあるのは以下の精神科疾患である。統合失調症、BPD(境界パーソナリティ障害)、躁うつ病、うつ病、てんかん虚偽性障害、詐病、など。これらの診断は必ずしも初診面接で下されなくても、面接者は常に念頭に置いたうえで後の治療に臨むべきである。
診断の説明および治療指針
初回面接の最後には、面接者側からの病状の理解や治療方針の説明を行う。無論詳しい説明を行う時間的な余裕はないであろうが、短時間の面接から理解しえた診断的な理解やそこから導き出せる治療指針について大まかに伝える。それにより患者自らの障害についての理解も深まり、それだけ治療に協力を得られるであろう。診断名に関しては、それを患者に敢えて伝える立場と伝えない立場があろうが、筆者は解離性障害に関する診断的な理解を伝える意味は大きいと考える。少なくとも患者が体験している症状が、精神医学的に記載され、治療の対象となりうるものであるという理解を伝えることの益は大きいであろう。それは一つにはいまだに多くの場合、患者は統合失調症という診断を過去に受けており、しかもその事実を知らされずに投薬を受けているというケースが非常に多いからだ。
患者がDIDを有する場合、受診した人格にそれを伝えた際の反応はさまざまであり、時には非常に大きな衝撃が伴う場合もある。ただし大抵はそれにより様々な症状が説明されること、そしてDIDの予後自体が、多くの場合には決して悲観的なものではないことを伝えることで、むしろ患者に安心感を与えることが多い。ただし予後をうらなう鍵として重大な併存症がないこと、比較的安定した対人関係が保てること、そして重大なトラウマやストレスを今後の生活上避け得ることについて説明を行っておく必要がある。
治療方針については、併存症への薬物療法以外には基本的には精神療法が有効であること、ただしその際は治療者が解離の病理について十分理解していることが必要であることを伝える。また初回面接には時間的な制限があるために、解離性障害についての解説書を紹介することも有用であろう。
患者がDIDを有する場合、受診した人格にそれを伝えた際の反応はさまざまであり、時には非常に大きな衝撃が伴う場合もある。ただし大抵はそれにより様々な症状が説明されること、そしてDIDの予後自体が、多くの場合には決して悲観的なものではないことを伝えることで、むしろ患者に安心感を与えることが多い。ただし予後をうらなう鍵として重大な併存症がないこと、比較的安定した対人関係が保てること、そして重大なトラウマやストレスを今後の生活上避け得ることについて説明を行っておく必要がある。
治療方針については、併存症への薬物療法以外には基本的には精神療法が有効であること、ただしその際は治療者が解離の病理について十分理解していることが必要であることを伝える。また初回面接には時間的な制限があるために、解離性障害についての解説書を紹介することも有用であろう。
参考文献)
岡野憲一郎 (2007)解離性障害入門 岩崎学術出版社