2014年4月9日水曜日

続・解離の治療論(26)


「黒幕人格」は恨みの魂でもある
この問題に触れていくと、「黒幕人格の問題はトラウマの最新層と関係している」というテーゼと少し矛盾してくるのであるが、それでも書いておかなくてはならない。このことは今述べた、黒幕人格を本格的に扱うべき状況は多くない、という話とも関係してくる。
私が黒幕さんたちと接した印象では、彼らは単なる加害者の内在化されたもの、とは異なる。ひとことで言えば大きな「恨みがましさ」を抱えた魂のようなのである。彼らは主人格にさえ羨望や憎しみを向けているようなのだ。当然治療者に対する不信感も並ではない。どのような事情かは不明ながらも、彼らは徹底して皮肉屋で悲観的で、厭世的な性格を獲得しているのだ。
 だから彼らとの真摯なコミュニケーションがどこまで生産的なものとなりうるのかがわからない。というか私は臨床家としてかつてそのようなコミュニケーションができたという記憶もない。黒幕さんたちとはたいてい偶然出会うのであり、催眠等により簡単に出てきてくれることはない(というより、これまで述べた理由から、そのような試みをそもそもしないのであるが。)
ある若い男性の遁走の例では、定期的に家を出てしまい、2,3日は戻ってこないということが月に1,2度ずつ起きる。遁走中にたまたまパートナーが出会った際、彼は無言で睨みつけて去っていったという。ある時遁走中に治療者にメールを送り「余計な邪魔をするんじゃない!」というメッセージを伝えてきた。本人にはもちろんそれらの記憶がない。

これらから受ける印象は、そもそも黒幕人格は治療者との交流を望まず、常に回避し続ける傾向である。これはかつてトラウマを与えてきた人格の内在化というよりは、トラウマを受けた本人の一部分であり、おそらく治療によっては到達不能なほどに人間不振に陥っているのである。言うならば反社会的な匂いがするのだ。