2013年12月6日金曜日

「難しい親たち」とパーソナリティ障害の問題(5)

わが国の様々な分野でモンスター化が生じていることは同時に、モンスター化する客や生徒に戸惑う従業員や教師が増大していることを意味する。ということは彼らの「サービス心」の向上が連動していることになるだろう。店員のマナーが改善され、より顧客が満足するようになったのだ。しかしこれは日本人のメンタリティが向上し、愛他性や真心の精神が行き届くようになったと考えるのは全然甘いだろう。これは企業の一種の戦略である。サービス業間の競争が進む中で、いかに一人でも多くの顧客を取り込むかということへの調査研究が進み、各社が顧客がより心地よさを感じるような対応を目指すようになったわけだ。ちょうどコンビニで売っているお弁当がよりおいしくなり(少なくとも口当たりがよくなり)、菓子パンがより食欲をそそるようになるのと同じだ。
 昔は人のサービスは今ほどではなかった。JRの前の「国鉄」といわれていた時代の駅員さんは仏頂面で切符をパチパチ切っていた。タクシーに乗る時は、乗車拒否されるのではないかと運転手の顔色を窺った。コンビニで100円のアイスを買っただけで最敬礼されることは予想していなかった。米国に行っている間に店員に愛想よく扱われることは期待しなくなった。でも私にとって「二度目」の日本はサービス向上の努力や民営化の影響で、お店の従業員は皆顧客にとても愛想がいいのである。マナーの良さでは横並びという感じで、少しでも不愛想な店員はそれだけで目立ってしまう。「お客様に失礼があってはならない」ことは鉄則でありさもなければすぐにでも売り上げに直結するという至上命令として刷り込まれ、そのためにそこにモンスターカスタマーからとんでもない要求を突きつけられて絶句し、まず「大変申し訳ありませんでした」から入ると教育された店員は、最初からそれを受け入れる方向性を定められているのではないか。今の時代に「お・も・て・な・し」が流行語になることは興味深いが、本来あれは日本にオリンピックを招致するための戦略でもあったのである。
 モンスターに対して弱気になるもう一つは訴訟問題である。客に訴えられたらどうしよう?このかんがえが脳裏をかすめるとサービス業に従事する人間は硬直し、思考停止状態になる。
 先ほどの「お弁当作って」の母親の対応をした教員も「うちの子だけ遠足に行けなかったじゃないの。どうしてくれるの?訴えるわよ。」というシナリオが脳裏をかすめた可能性がないわけではないだろう。
 もう一つモンスターペアレントに弱腰にならざるを得ない教員の事情として重要なものがある。それはいわば子供が「人質に取られて」いるということだろう。著書の中で尾木氏も指摘しているように、モンスターペアレントは一人で学校にねじ込んでいるわけではない。そこに罪のない子供を巻き込んでいるのである。