2013年9月22日日曜日

トラウマ記憶の科学(19)

 デビーという症例(181ページ)。60歳の独身の彼女は、体重が320ポンドあるという。(キロに直すと150キロほどか。アメリカでは病院に行くと通常の体重計では針が振り切れる人のために、業務用の分銅付きの体重計が廊下においてあったなあ。彼女もそれに該当することになる)。彼女はバイパス手術を受ける前に心理士のところにその妥当性のアセスメントに回されてきたという。(ちなみにアメリカではこのバイパス手術は結構多い。内視鏡手術で胃のかなりの部分を大きなホッチキスで閉じてしまうのだ。すると少し食べてもすぐにお腹がいっぱいになってしまい、それ以上は食べられない。非常に苦しいが体重減少には劇的な効果があるために、肥満の人の最後の手段と言われている。ただしこれをしてもまだ肥満状態の人が私の患者さんの中にもいらしたが。)しかしこの手術を受けるためには、デビーは体重を10パーセントほど落とさなくてはならないともいわれていたという。
 デビーの肥満歴は長く、すでに幼少時からそうであったという。彼女はこれまであらゆる治療を行い、結局成功したことがなかった。カウンセラーは尋ねた。「あなたはアセスメントのためにいらしたわけですが、治療もお考えですか?」それに対してデビーはハナで笑う態度を示した。「治療ですって?私が最初のダイエットをしたのはあなたが生まれる前のころよ。それから何度試みては失敗したかわからないわ。どうせあなたも何も出来ないわよ。」それを聞いて、カウンセラーは圧倒される思いだった。
 実際デビーは過去に何度もダイエットを試み、著しい体重減少に成功しても、そのあとそれよりも早くリバウンドを繰り返していた。彼女は脂分を含むもの、甘いものをこの上なく好み、それを始終食べることにこの上ない至福を感じていると言った。
 さてこの先、割と予想がつく展開になる。が、ともかくも本を要約しよう。まずカウンセラーはコヒアレンスセラピーのテクニックの一つであるsymptom deprivation を行なった。つまり症状を取り去ってどうなるかを想像してもらう。するとデビーは「あらどうしよう、私がどんどんやせていくと・・・・目立っちゃうわ」と言った。

少し早送りすると、デビーは幼少時の思い出を話し、ごく小さいころ、彼女はやせていて非常に可愛く、そのために6歳のころおじとその友達に「誤った関心」をもたれてしまい、性的虐待を受けたという。そのころから猛烈に食べ始め、太ると彼らは彼女を彫っておいてくれるということを発見したという。そのころからデビーは常に太っていて、「私が太っている限り、弾性は私のことを相手にしなくて、私は安全だわ」と思うようになったというのだ。
 そこでカウンセラーはインデックスカードに書いてもらった。「私は体重を減らしたくなんかない。私がやせたら、男性たちは私に振り向き、危険だからだ。もし体重を減らしたらひざへの負担や腰の痛みは減るでしょう。でも私は太っているほうが大事です。」
これを一日数回読んでもらって2週間経ち、デビーは再びカウンセラーのもとにやってきた。「不思議です。私は小さいころ性的虐待を受けたことについては、個人療法でもグループでも話していました。でもそれと肥満との関係があることなど一度も考えたことはなかったんです。」そして彼女は、この10日間ほどは、正しいダイエットプランにしたがって、23ポンド体重を落としたという。そのうちデビーはカードを読みながら、違和感を覚えるようになった。「このカードに書かれていたことは、もう60歳の私には当てはまらないんじゃないかしら。私はもう体重を落としても、男性の関心を集めるということはないのではないかしら?」
これがいわばミスマッチの役目を果たすようになった。カードには「私はやせたとしても男性の関心を引くことはあまりない」が付け加えられた。効して彼女は徐々にではあるが体重を減らすことに成功して、バイパス手術を必要としなくなったという。教訓としては、いくら慢性の肥満を抱えている人でも、コヒアレンスセラピーは有効である、と書かれている。

ウ~ン、というケースだ。ありかなあ?こんなにうまく行くのかしら?