2013年6月20日木曜日

DSM-5とボーダーライン 改訂版(5)


BPDの最近の研究

BPDをめぐる診断基準は、将来ハイブリッドモデルがどのように採用されていくかにより異なって来るが、いずれにせよ現代における実証研究を反映したものであることは確かである。そこで最近のBPD研究の成果のいくつかを紹介しておきたい。

予後研究については、近年のガンダーソンらによるBPDの10年にわたる予後調査を紹介しよう。Ten-Year Course of Borderline Personality Disorder Gunderson, J et al. Arch Gen Psychiatry 68:827-837.2011. 
この研究によれば、175人のBPDの患者を10年間フォローした。大うつ病、その他のPDをコントロール群としたけっか、BPDの10年後に85%の患者が寛解したが、それは大うつ病の寛解よりも遅かったという。またほかのPDに比べてもBPDの完解はやや遅かった。さらに12%のBPDは再発したが、それも大うつ病や他のPDよりは少なかった。BPDの診断基準を満たす症例の数の低下の仕方は似たようなものだった。BPDの患者の社会機能のスコアは、やや厳しく、統計的には意味があるが最小限の改善を見せただけであった。すなわち大うつ病、他のPDに比べて機能レベルは低いままであったという。
  この研究で一つ興味深いのは、BPDはその症状レベルに関しては大幅に寛解するものの、それ以外のPDについても同様の事が言えることである。「…偏った内的体験や行動の持続的様式」であるはずのPDは「治っていく」ものであるということである。ここに多軸診断の廃止の要因も関係していることが考えられる。近年のCTやMRTの性能の向上により、BPDにおける大脳の局所的な容積の変化が明らかになってきている。そしてそれらはBPDの症状との関連を明らかにしている。たとえば海馬や扁桃核の容積の低下は情緒的な処理の低下と関係し(Guitart-Masip, M. et al.)、上、下前頭回の容量の低下は、メンタライジング機能や共感機能の低下に対応している(Hooker, C.I., et al.)とされる。
Guitart-Masip, M., Pascual, J.C., Carmona, S., Hoekzema, E., Bergé, D., Pérez, V., Soler, J., Soliva, J.C., Rovira, M., Bulbena, A., Vilarroya,O. ; Neural correlates of impaired emotional discrimination in borderline personality disorder: an fMRI study Progress in Neuro-psychopharmacology and Biological Psychiatry, 33 (2009), pp. 1537–1545

Hooker, C.I, Verosky, S.C. Germine, L.T. Knight,R.T. D'Esposito, M. Neural activity during social signal perception correlates with self-reported empathy Brain Research, 1308 (2010), pp. 100–113.