2013年6月17日月曜日

DSM-5とボーダーライン 改訂版(2)

DSMにおけるBPDの位置づけ
1980年にDSM-IIIに所収された1980年以来、BPDはわが国でも広く臨床家や一般の人々の間でも知られ、きわめて有用な疾患概念となって臨床の場に定着している感がある。そしてDSMにおけるBPDの診断基準は、30年前に提示されてから大きく変更を加えられないで来たのである。
 事実、従来のDSMにおけるBPDの診断基準は、それなりに洗練されたものであった。「人から見捨てられそうになると、それを回避しようと死にもの狂いの努力をする」、「慢性的な空虚感」「他者に対する理想化と脱価値化を繰り返す」…・などの合計7つの精選された診断基準に、8番目の「アイデンティティの障害」を加えた8つが、1980年のDSM-IIIBPDの基準となったのだ。それ以来現在までの変更としては、1994年のDSM-IVにおける第9番目の基準「精神病様の体験」が付け加わっただけである。これらのそれぞれが信頼性と妥当性を検証され、その存在理由が正当化されたという。9番目の項目もそれが組み込まれるうえでは厳正な議論や検証があったとされる。

しかしその概念の定義や臨床的な応用に関しては、多くの問題が提出されてきたのも事実である。従来のBPDの診断基準に対する批判としては、それが「カテゴリー的 categorical」すぎるということ、かなり多くのパーソナリティ障害(以下PD)PDと重複すること、そして「多形質的polythetic」でそれがかなり多様な病態を含みこむということであった。特にこの多形質性に関しては、BPD9つのクライテリアのうち5つが満たされる方法は256通り出てしまうことになるという事実に表れる。同じBPDの診断がつく二人の患者を比べた場合、場合によっては23の診断基準しか共有しないこともありうるのだ。そして主としてこの問題が、ディメンジョナル(dimensional, 次元的)モデルの導入につながったことになる。