2013年6月5日水曜日

DSM-5のサプライズ

昨日はやっとアマゾンから届いたDSM-5のハンドブックをめくっていて、開いた口がふさがらなかった。私が気が思いながらも確認しようとしていたパーソナリティ障害の項目の七面倒くさいハイブリッドモデルによる診断基準が・・・・・掲載されていなかった。そのかわり従来のDSMに見られた10PDとその見慣れた診断基準が少しも変更を加えられることなく並べられていたのである。ある報告によると、新しいPDの診断モデル(ハイブリッドモデル)2012年の12月にはすでに棄却されていたという。「パーソナリティとパーソナリティ障害」ワーキンググループには、二人のメンバーが辞退したが、他にそのようなDSM-5のワーキンググループはなく、またその長い作業が棄却された例はないという。つまりこのグループの内部は相当もめていたことになる。要するにこのワーキンググループは一時はディメンジョナルモデルを信奉する人たちの勢いに過剰に流されてしまい、DSM-5を用いることになる多くの臨床家の性質を理解していなかったと言うことである。それは忙しい毎日の臨床に明け暮れる臨床家たちは、結局はカテゴリカルにしか考えない傾向にあるということである。つまりAさんはボーダーさんだろうか、とは考えても、Aさんはどの程度ボーダーさんだろう、とは考えにくいのだ。それに中途半端な診断は治療に用いた保険による支払いも大きく影響する。患者さんが「ボーダーさんの傾向がある」というだけで保険会社がその治療費を面倒見てくれるかは大いに疑問だからである。さらにはASPとかBPDのようによく知られていてクライテリアも正しいことがわかっているものをどうして変える必要があるのか、ということになる。ただしDSM-5ではワーキンググループの作業を尊重して、付録にその草案を掲載しているという。

(資料はBlack, DW: Personality disorders inDSM-5 Posted on Thursday, May 16th, 2013 (http://blog.oup.com/2013/05/personality-disorders-dsm-5/))