2013年6月14日金曜日

精神療法はどこに向かうのか (7)

3.より関係論的な枠組みの重要性が増す
最後は私が治療を行う際の概念的な枠組みないしは理論的な根拠としている関係精神分析の観点からのものである。米国における最近の関係精神分析と呼ばれる学派は、古くはサリバン派に代表されるような対人関係学派の流れをくむ。サリバンは、精神療法においては、治療者は関与しながらの観察participant observation を行うべきだと提唱した。すなわち治療者は単なる客観的な観察者かつ治療を施すものではなく、患者と関わりつつその特徴や病理を把握するべき存在であるということだ。そのサリバンの流れをくみつつ新しい精神分析の流れを形成しているのが関係精神分析学派であるが、そこで提唱されている事柄は、一つの考え方というよりは、より臨床の現実のリアリティに近づいたものとしてとらえることができる。すなわち従来の精神分析療法が「精神分析とはこうあるべきである」という流れであるのに比べて、「現実の精神分析状況ではこのようなことが起きている」という議論に沿ったものであるといえる。

関係論的なアプローチのもう一つの特徴は、治療状況における患者と治療者の関係性を創発的なものとする見方であろう。すなわち治療状況とは患者の病理を見出すものというだけではなく、両者により新たな関係性を創り、あるいはそれが創られているという現実を視野に入れ、受け入れることである。
例えば患者が自分の父親との関係についての、さまざまな感情の入り混じった思い出を語るとしよう。そしてその治療者に対してもも父親に向けたものと同様の感情を抱いていたとする。従来の精神分析では、それを父親転移的な要素をはらんでいると考え、それを治療的に扱うことを考える。しかし関係論的な枠組みでは転移という概念そのものにも批判的な目を向ける。すなわち患者が治療者に向けている勘定には、さまざまな転移以外のものがあり、そこにはその治療者と患者の関係性に独特の、そしておそらくはその日その時の治療的な文脈に依存した新たな関係性が生じていると考える。それは過去の繰り返しとしての転移関係だけではとらえきれない関係性であり、そこには治療者の個性や個人的な体験という「持ち出し分」ないしはエナクトメントの要素も介在しているということに注目する。そしてそれを非治療的なものとは考えず、むしろ治療的に用いることという方針をとるのである。