このあとGunderson の論文では、PDの一つとしてのBPDの幾つかの特徴が挙げられている。BPDはPD群の中で異色を放っているが、同時にPDのなかで最もその有病率が高いこと、その意味で私たちの精神衛生に重要な問題を呈していること。そのため精神療法の世界ではこれを治療の重要なターゲットとして治療環境を組織していることが多いこと。CLPS (Collaborative
Longitudinal Personality Disorder) というPDの長期経過に関する研究があるが、それによるとBPDは物質依存、うつ病、双極性障害、パニック障害に関して、それらの長期予後を悪くするという。(しかし逆にそれらの障害がBPDの長期予後を悪くするという結果は出ていないという。)そのために第1軸に重要な病理があっても、BPDは第一の治療ターゲットとされやすいということである。そしてそして、BPDのみが、実証データに基づく治療法のデータが得られている障害であるという。
この論文、小難しいので早く読み終わろうとしているが、でも重要な要素が濃縮しているという面を持っている。もう少しがんばるか。「BPDの診断は極めて過少に使用されており、また大部分の臨床家はBPDを扱うトレーニングを有していないため、そしてさらには多くの臨床家がBPDを治療したがらないため…」とある。これはわかる。結局日本も欧米もあまり変わらないということだ。「DSM-5における診断基準の変更は、この診断をより目立つものにすることが要請されている。」フンフン。そこでBPDをよりわかりやすくしたいものであるが、問題はBPDがPD群の一つとして規定されるので、診断があいまいだとすぐにPDNOD(ほかに分類されないパーソナリティ障害)に組み込まれてしまうということ、そして何よりBPDを含むPD群は現在の計画ではDSM-5ではすべて第1軸に入ってしまうことで、多くのツワモノどもに囲まれてより目立たなくなってしまうという問題がある、と書かれている。ナニ?そんな計画まであるのか。それともこれが噂にもある「DSM-5の多軸診断廃止」ということなのか???
もしBPDが第1軸に入るとするならば、いろいろな可能性が出てくるという。たとえばBPDを気分障害のもとに括る。こうすることでBPDに対するスティグマ性は減るが、現在の薬物の過剰使用に拍車をかけてしまうし、対人関係上の過敏反応ということが置き去りにされてしまう。しかし衝動コントロール障害のもとに位置づけたら、これにより同様にスティグマ性も減るが、これまでのBPDに関する独自の研究や治療法が無駄になってしまう。不安障害のもとに入れるのが一番無難だが、診断基準にはあまり不安ということが出てこない。結局一番いいのは、BPDのみを第1軸に入れ、それ自身として「独り立ち」してもらい(つまり解離性障害のように)、あとのPDは第2軸に残す、というなのかもしれない、という。ヒエー。