2013年5月4日土曜日

DSM-5とボーダーライン(6)

このところ寒い日が続くが、すごく損をしている気がする。一年で一番心地良いはずの季節が、これでいいのだろうか?私は完全な「夏派」なので冬のない場所になら喜んで移住したいところだが、私の周囲には実は「冬派」が多い。よく聞かれるのが「寒さは余計に着れば我慢ができる。」神さんの理由はもっと深刻だった。「夏は●が出る」。

まだ現在読んでいる論文を紹介していなかった。
Revising the Borderline Diagnosis for DSM-V: An Alternative Proposal
John G. Gunderson, MD  J Pers Disord. 24:694-708.2010. まあこれから紆余曲折があったわけだが、その過程を知る上でも参考になる。しかもこの論文の最後には、支持者のリストというのがあって、そこに錚々たる精神医学者の名前が並んでいるのである。
さて論文の方はConclusion まで来てしまった。もうこれで終わりである。注意深く読みたい。
「この論文で提案したことは、以下の認識を踏まえたうえでのことである。それは Kupfer Regier などによる次元モデルdimention model や科学的なパーソン理論personologyがいずれはPDの分類に関して優勢になるだろう。しかし何しろ科学と臨床とには極めて大きなギャップがあるのだ。」ふーん。PDに関する理論は、かなり大きいことが起きているらしいというのは感じていたが、かなりそれをはっきり言い切っている。Gunderson が反対を示しているこの時点でのDSM-5の改訂案は、相当に「科学的」だったのだろう。
更に「これまでのBPD概念の問題は、他のPDとの重複が多かったことであり、またそれがいくつかの病理の混在という形をとっていたことだ。その問題を解消するために、『クライテリアの幾つを満たすか』、という診断の仕方から、『どの程度表現型を満たすか』という提案を行った。」そうだ。表現型とは例の、「対人関係における過敏性」(従来の診断基準の123が入る)、「感情的・情動的な調整障害」(同じく45)、「行動の統制の障害」(同じく67)、そして「自己の障害」(同じく89)の4つである。
最後に、この研究は複数の人々の協力によってなされたが、皆共通して、現在提案されているDSM-5BPDの診断基準に不満を抱いている、とある。つまりそれがこの論文の表題のAn Alternative Proposal(代替案)という意味というわけだ。ただし2010年の段階でどのような提案がなされていたかは不明である。まあ想像するに、次元モデルへの大胆な転換がうたわれていて、それに対して「ちょっと待った、臨床現場はそこまでついて行っていないよ…」という声をあげたということだろうか。
ちなみにネット上では、DSM-IV and DSM-5 Criteria for the Personality Disorders というものがダウンロードできる。DSM-5の最終案が522日までベールに包まれている以上、これが最終案に一番近いということだが、これがかなり冗長なのだ。Gunderson らの努力にもかかわらず、「原案」の科学性がかなり残されていると考えるべきだろうか?
それを頑張ってさわりだけ訳してみる。
A パーソナリティ機能の障害が、1かつ2に見られる。
1.自我機能の障害が以下の か に見られる。a.アイデンティティ、つまり乏しい自己イメージなど。b.自己の方向性、つまり目標や希望や価値観やキャリアプランの不安定さ。そして
2.対人機能の障害が、以下の か に見られる。 a.共感性、つまり対人過敏性とともに見られる他者の感情を認める力の障害 b. 親密さ。強烈で不安定な関係性を持つ傾向など。
B病的なパーソナリティ傾向が以下の分野でみられる。
1.陰性の感情状態 negative affectivity が、以下の a, b, c, d に見られる。a.感情の不安定性 lability, b.不安, c.分離不安, d.抑うつ性
.脱抑制 disinhibition が以下の a, b, に見られる。a.衝動性
  b.危険を冒すこと
3.怒り,反抗傾向 antagonism
C A,Bが恒常的にみられること。 D正常範囲でみられるとは思えないこと。E 薬物などの影響ではないこと。

うーん、めんどくさい。何だかわかんないや。