2013年4月7日日曜日

DSM-5と解離性障害(7)

今日は昨日とは打って変わって日差しがまぶしい。しかし風が強く、アクアラインも閉鎖となったので困っている。大学院はいよいよ授業の始まりだ。ブログのほうは、読者の関心を無視し、粛々と進んでいく。昨日からの続き。


ちなみにサブタイプ:解離(離人症/現実感喪失)症状優勢型PTSDとしては次のような診断基準が加わるらしい。
 
PTSDの診断基準を満たし、継続あるいは頻発するA1, A2, あるいは両方の症状を経験するもの
A1. 離人症:自身の心的経過や身体に対して距離を感じ、あたかも外から眺めているように感じる(夢の中にいるように感じる、自身や自身の身体にが非現実的に感じる、時間がゆっくりすすんでいるように感じる、など)
A2. 現実感喪失:周囲に対する非現実感(周囲の世界を、非現実的、夢の中のよう、遠くにあるみたい、歪んでいる、などと感じる)
B. その機能障害は、物質による直接的な生理的効果(ブラックアウトやアルコール中毒による振る舞いなど)や、他の疾患に因る状態(複雑部分発作など)ではない

さて次の論文に移る。
The Dissociative Subtype of PTSD: Rationale, Clinical and Neurobiological Evidence, and Implications.  Ruth Lanius, et al. Depression and Anxiety 00:1-8, 2012
これもシュピーゲル医師が深くかかわっている論文である。
ふーん、考えてみると、この「PTSDの解離優勢型サブタイプ」の追加は、少なくとも解離屋にとってはDSM-5の最大の収穫ということになるかもしれない。この論文を読んでいるとそのことがわかる。
このところトラウマの世界では、この解離タイプについて盛んに論じられているらしい。簡単に言ってしまえば、トラウマを負った患者でPTSDを発症した人々の一部は、とくに離人症状、非現実体験が顕著であるということであり、それを一般のPTSDとは異なるものとして理解し、治療アプローチを考える必要があるということである。
この論文では、解離タイプを考える根拠を4つほどあげているが、どれもそれなりに説得力がある。第1に、PTSDの患者を調査し、taxometric analysis(分類分析)を行ったところ、戦争からの帰還兵と平民に関して、離人感と非現実体験を特に症状として持つ人々のサブグループが抽出されたという。これは科学的手法を用いた場合の話であり、非常に説得力のある話だ。
2PTSDの認知行動療法において、解離タイプはそれ以外の患者と異なる反応を示すという。そのために認知療法の手法を変更する必要が生じるというのである。
3に、解離タイプの患者には、それ以外とは異なる情動コントロールのパターンが見られるということだ。これについては私の昨日のブログである程度論じてある。そして第4には、このタイプを加えることで、疫学的、神経生物学的な研究、精神病理学、診断学についての様々な研究を加速させる効果があるというわけだ。それはそうだろう。このような診断が加わることにより、ある意味では解離タイプのPTSDは実体化され、それについての解説書が増え、それをテーマにした研究がなされるというわけだから。では解離タイプのPTSDと従来の解離性障害とはどのような関係になるのだろうか?おそらく両者のオーバーラップがこれから問題になることだけは間違えないように思う。