2013年4月6日土曜日

DSM-5と解離性障害(6)


 この脳科学的な所見とも関連した解離の理論を、”corticolimbic inhibition model” というそうな。日本語にすると、「皮質辺縁系抑制モデル」。これでもよくわからないだろう。つまり「意識の働きが情動にブレーキを掛けることから、解離が生じると考えるモデル」といえば、少しはわかりやすくなるかもしれない。「皮質」とは大脳皮質のことであり、脳の表面の部分。ここで様々な情報処理が行われ、思考が成立する。「意識」をつかさどる部分と考えていい特に前頭前野の皮質は高度な思考活動をつかさどっている。他方感情部分は、脳のより深部(扁桃体などを含む辺縁系等)で処理されるというわけだ。
 ある研究によれば、CADSS(Clinician-Administered Dissociative States Scale(Bremner, et al.,1998)というスケールを用いて患者のうち高いスコアを示す人(つまりは解離を起こしやすい人)に、恐怖刺激を与えると、腹側前頭皮質が高い活動を示したという(同論文p20)。わかりやすく言えば、恐ろしい話や刺激を与えられた場合、解離を用いる人々は、自動的に感情をつかさどる部分(扁桃体など)をシャットダウンする。そしてそれが解離を生むというのだ。扁桃体とは、普段はある程度は活動していることで、感情を体験することが出来る。感情は人間が防衛反応を示すために必要不可欠なものであるが、それを欠いた状態が解離といえるのだ。天災に被災したり、暴行を受けた時に感情が掛けてしまう状態は、そのような場面で通常は活動をしなくてはならない扁桃体が働いていないことになる。(サルで両側の扁桃体を取り除いた場合に起きるクリューバービュッシー症候群。ヘビを恐れるはずのサルが、蛇の頭を平気でつかんでかじろうとする、等の行動を起こす。これではサルも身を守れないわけだが、あれも解離と無縁ではなかったということも考えられる。)
このような研究もある。PTSDBPDの患者さんに、温度による痛み刺激を与える。(氷水に手をひたす、などだろう。これで何か外傷が生じて訴訟問題になるということはあり得ないからだ。)
すると右の扁桃体の抑制と、解離の度合いが並行関係になったという。(右の扁桃体、というのを時々聞く。扁桃体にも左右差があるらしい。)
ということで“Where Are We Going? An Update on Assessment, Treatment, and Neurobiological Research in DID as We Move Toward the DSM-5” B.L.Brand, et al. Journal of Trauma and Dissociation, 13:9-31,2012 を読んだことになる。まあ収穫はなかったわけではない。