2013年4月5日金曜日

DSM-5と解離性障害(5)


 トラウマの治療者たちの世界は、PTSD屋さんたちと解離屋さんたちとに、ユルーく分かれている。両者は喧嘩をしているわけではない。同じ仲間である。でもなんとなく関心の向け方が違う。PTSD屋さんたちは、症状が明確で、治療法も比較的はっきりした病理に惹かれる。解離やさんたちはよくわからない症状に惹かれる?そして後者は常にマイノリティーである。これは欧米も日本も同じである。しかし、解離やさんは「でも解離って、PTSDにも顕著に起きているでしょう?」と言いたい。他方ではPTSDの専門家たちは、「そんなことをいえば、皆解離になってしまう・・・」と若干警戒心を持つ。
 そのような文脈で、いわゆる「PTSD解離タイプ」という診断がDSM-5に提案されたが、最終版でもおそらく採用になっているのだろう。ともかくそのようなPTSDのサブタイプというアイデアが出たのも、この解離を二種類に分けることが出来る、という「発見」と関係していたのではないかと思う。この問題について、同論文では次のように書いてある。
 ある研究では外傷を負った人々に出来るだけ多くの記憶を語ってもらい、それを録音したものを聞いてもらう。そしてその間患者をMRIでスキャンしたというわけだ。すると70%の患者は心拍数の増加を見せたのに対して、30%の患者は離人体験や非現実体験と共に、特に心拍数の増加を見せなかった。
 この第一次解離では、再外傷体験やフラッシュバックなどが生じ、感覚的な記憶内容の侵入が生じている。その際に内側前頭皮質と前帯状回の活動の低下が生じる。これらの部位は感情の調節をつかさどることが知られている。そして同時に起きるのが辺縁系と扁桃体の活動高進である。この前頭前野と扁桃体はシーソーのような関係があると見ていいであろう。前頭前野は扁桃体を抑える働きがあり、前者の活動が低下する場合には、扁桃体が野放し状態になる、という風に。ということは第2次解離がどうなっているかは、もう言わずもがなということである。すなわち内側前頭皮質と前帯状回の活動の高進と、扁桃体の活動低下ということになる。前者と真逆だ。
 精神分析になぞらえれば、前頭前野は自我、扁桃体はエス、という感じだ。そして両者は常にけん制をし合っている。エスが勝つとフラッシュバックや感情の暴発が起きる。とすると解離状態はエスが過剰に抑えられてしまった状態、と考えられないこともない。まあ事態はそれよりはるかに複雑だが。