診断基準の話)
そこでまずは診断の話。私はDSMのBPDの診断基準はよくできていると思う。「人から見捨てられそうになると、それを回避しようと死にもの狂いの努力をする」、「慢性的な空虚感」「他者に対する理想化と脱価値化を繰り返す」…・これら合計7つの精選された診断基準に、8つ目の「アイデンティティの障害」を加えた8つが、1980年のDSM-IIIのBPDの基準となったのだ。それ以来現在までの変更としては、1994年のDSM-IVにおける第9番目の基準「精神病様の体験」が付け加わっただけだ。これらのそれぞれが信頼性と妥当性を検証され、その存在理由が正当化されたという。9番目の項目もそれが組み込まれるうえでは厳正な議論や検証があったとされる。ここら辺、何か論文口調だな。
するとDSM-5のBPDの診断基準は、結局これまでに蓄積された研究を生かしてこれらの9つの基準の細かな表現を補正したものであるということらしい。たとえば
「人から見捨てられそうになると…」→「人から見捨てられたり拒絶されそうになると…」というマイナーチェンジなどはその例だ。
「アイデンティティの障害」は詳しくは「顕著で持続的な不安定さを示す自己イメージあるいは自己感」(岡野訳)ということだが、これはBPDの研究にきわめて大きな影響を及ぼしたカンバーグの概念を組み込んだものであるという。そこに今回「悪い自己、という感覚を含む」という文言が付け加えられた。ここら辺の事情はいろいろあるのだろうが、よくわからない。
よくよく見ると第9番目の「精神病様の体験」はかなり解離的な表現にシフトしている。「解離的な心の状態、すなわち自己や世界が切り離されて、リアルに感じられないことと、ストレスに関連した被害的な思考」という風に変わっているではないか。これはむしろ解離の研究者にとっても大きなニュースといえよう。
DSM-5のBPDの診断基準として提案されているものの一つの特徴は、この9つの基準を基本的には守ったうえで、それを4つのセクターに分けていることだ。1,2,3をまとめて「対人関係における過敏性」、4,5をまとめて「感情的・情動的な調整障害」、6,7を合わせて「行動の統制の障害」、そして8,9を合わせて「自己の障害」とする。