2013年4月22日月曜日

DSM-5と解離性障害(19)



 転換性障害は、とにかく一筋縄ではいかない。患者さんは突然奇妙な、あるいは激しい体の動きや手足の麻痺などの症状を訴える。直接的な原因は見つからないし、何かショックな出来事があったかといえば、必ずそういうわけでもない。症状の出方も気まぐれである。ヒステリーは人類の歴史の中でこれだけ長く私たちを悩ませるだけの理由があったのだ。いまだにDSMICDではその扱われ方が異なっている。DSMでは身体化障害(体に症状が出る精神障害)のひとつとして、ICDでは解離の一種として捉えられるという違いだ。DSMのこの方針はDSM-5になってもあまり変わらない。
 そこでこの論文では、この転換性障害についてもう少し詳しく検討しましょう、ということで進んでいく。何日か前にも出たトルコ出身のDr. Şarの研究では、転換性障害の患者さん38名を調べたところ、48%は解離性障害の診断を満たしたという。また幼児期の虐待とネグレクトの率も高かった。しかしひとつ悩ましいのは、解離性障害以上に併存率の高い精神障害があったということだ。それは不安障害 (78.8) 身体表現性障害 (76.3%)、感情障害 (71.1%) ということである。このことから転換性障害と解離性障害は必ずしも同一の、あるいは重ね合わせることができるような関係ではないと述べられている。
この後論文ではいくつかの研究が紹介されているが、結局転換性障害と解離性障害の関係性については決着がつかず、両者を同一のカテゴリーに入れるだけの十分な根拠は示せないという結論に至っている。
転換性障害と解離性障害の関連を調べるうえで一つのネックになっているのが、解離傾向の尺度が問うているのは主として精神症状であるということだ。だから転換性障害の人にDESを施してもさほど高くはないということになる。だから身体症状をより含む解離尺度を用いれば、その値は高くなる・・・・。なんだか当たり前の話だ。結局解離性障害と転換性障害の関係は、解離をどのように定義するかによっていくらでも異なってくるということだ。なんだか当たり前の話だが。
もう少し言い方を変えてみる。そもそも解離の定義とは「さまざまな心身の機能が統合を失った状態」である。DSMでもICDでもそうだ。ここまではいい。そして記憶とかアイデンティティなどの精神機能が統合から外れると、典型的な解離性障害となる。また知覚や運動能力などの身体機能が統合から外れたら、これが転換性障害と呼ばれる。
この「さまざまな心身の機能が統合を失った状態」という解離の定義は、かなり広いものであるが、これを用いる限りは、転換性障害も当然解離性障害に含まれる。ところが、「精神機能が統合から外れる場合と、身体機能が外れる場合は、ちょっと性質が違うんだよ。両方は別の名前で区別をした方がいいんじゃない?」という見方をすると、この両者は分かれていく。つまり(狭義の)解離性障害と、転換障害とに分かれる。だから解離を狭義にとるか、広義にとるかの立場の違いがある限り、この種の混乱は避けられないということだ。その場合無難な方針は、とりあえず別物として、でも近い場所に並列させる、という今回のDSM-5のやり方なのだろう。
 
ところでインターネットで検索をしているうちに、便利なサイトを見つけた。http://dxrevisionwatch.com/tag/dsm-5-draft/ このサイトはDSM-5で何が変わる代るかをワッチするというサイトで、ここにアメリカ精神医学会の今年発行になったDSM-5の「table of contents索引のようなもの」があった。これで決定だろう。そこに挙げられた、「解離性障害」と、転換性障害を含む「身体症状と関連障害」の部分をここに提示しておく。

DSM-5 table of contents (APA,2013
Dissociative Disorders
Dissociative Identity Disorder
Dissociative Amnesia
Depersonalization/Derealization Disorder
Other Specified Dissociative Disorder
Unspecified Dissociative Disorder

Somatic Symptom and Related Disorders
Somatic Symptom Disorder
Illness Anxiety Disorder
Conversion Disorder (Functional Neurological Symptom Disorder)
Psychological Factors Affecting Other Medical Conditions
Factitious Disorder
Other Specified Somatic Symptom and Related Disorder
Unspecified Somatic Symptom and Related Disorder