2013年4月20日土曜日

DSM-5と解離性障害(17)

今日は一転して冬のような寒さである。真冬よりはぜんぜんましなのに、この程度の寒さを託ってしまう。人間はわがままなものだ。

さて、DP/DRの続きである。このカテゴリーを設けることは他の解離性障害との差別化をはかることになるが、それは二点においてであるという。一つは、DP/DRでは記憶やアイデンティティの解離ではなく、「感覚の解離」が主たる症状であること。もう一つはトラウマの体験がすく直前にあり、それへの反応として生じること、とある。(これだけを読むと慢性的な離人症は、あまり含まれないのかしら?ということになる。DSM-5のDP/DRの概念の正体はまだ私自身つかめていない。)そしてこれに関連して、基本的にはトラウマ体験に対する解離反応には3つあると言っている。えっ、それ聞いたことない・・・・。割と新しい議論かも知れない。
 ① そのトラウマから、身を引き離す(DP/DRのこと)、②トラウマを忘れてしまうこと(解離性健忘)、③現在の自分のアイデンティティから記憶を分けてしまうこと(DID,解離性のフラッシュバック)。そしてDP/DRはその一つとして概念化されるというわけだ。それはまあ、そう言えないこともないか。でも②のトラウマを忘れてしまうこと、というのも本当は「忘れて」いないということをわれわれ臨床家は知っている。別の人格状態が保持しているのだ。そしてその意味ではこの②と③は実は非常に近い関係にある。それを敢えて、①(はいいとして)、②、③などと分ける必要はあるのか、と思ってしまう。
 続いてDR/DRの生物学的特徴について書かれている。a. 後頭皮質感覚連合野の反応性の変化、 b. 前頭前野の活動昂進 c. 大脳辺縁系の抑制。とある。ここら辺はすでにこのブロクでも見た内容だ。要するにDP/DRはPTSDの「解離タイプ」のことなのだ。そしてそれは非・解離タイプとまったく異なる、というよりは逆の脳のパターンを示すというわけである。
 HPA軸についての議論も出てくる。HPA軸とは、視床下部―下垂体-副腎皮質軸であり、ストレスに応じてストレスホルモンであるコルチゾールがどの程度スムーズに放出されるか、そこにどのようなコントロールが働いているかという話である。それによるとHPAは過敏反応のパターンを示すということだ。(うつ病やPTSDは逆に鈍化した反応パターンを示すとされる。)
 このような記載から分かる通り、DP/DRがクローズアップされた背景には、この大脳生理学的な所見がみられることが大きく働いている。

DP/DRというのは、ある「状態」として大脳生理学的な検査の対象になるという意味では研究がしやすいと言えるだろうか。例えば人格の交代現象を研究しようにも、その交代の瞬間をとらえてMRIの所見を得ようという試みは、技術的に不可能に近い。それに比べてDP/DRはある程度継続的に体験され、生物学的な検査もそれだけしやすいという利点があるのであろう。