2013年4月14日日曜日

DSM-5と解離性障害(11)


北の国の挑発についてのニュースを聞くと、つくづくこの世は弱肉強食の世界だと痛感する。ネットで不穏な予告をしただけでつかまってしまう安全な日本という社会(でも凶悪犯罪、詐欺などにも頻繁に耳にすることも事実だが)を一歩出ると、そこはrules of jungleが支配する世界である。人間はおそらくこのような社会を当たり前のように生き抜いてきたのだろう。日本だって戦国時代は、それこそ東京に神奈川の軍隊が押し寄せてくる、みたいなことが起きていたのだ。そういう時代じゃなくてよかったとつくづく思う。

 解離症状と、治療反応性についても興味深い話が書かれている。PTSDのうち、解離タイプの方が、よりそのPTSDの診断を持ち続ける傾向があるということ。PTSDCBTによる治療に対する反応性は、解離傾向が低いほど良好であるという研究結果。薬物依存のCBTによる治療について、解離傾向が高い人は55%が途中でドロップアウトしてしまったのに対し、低い人は29%であったという報告。性的外傷を受けた子供の治療について、両親が報告した子供の解離の度合いが高いほど、ドロップアウトをする率が高かったという研究。これらは結局「解離タイプのPTSD では特にCBTによる治療が難しいという事実を指しているということである。

この論文を読み終えて、ふと思ったことがある。この論文のどこにも言及されていないが、おそらくこの「解離タイプ」は、いわゆる複雑性PTSDCPTSD)の概念ともつながっている可能性がある。CPTSDJudith Herman の提出した概念であり、幼少時ないしは長期にわたる外傷体験をもとにして発症し、解離症状や悲観的な人間観、対人関係上の特徴を主症状とするが、DSMに収められてはいない。私の知る限りではDSM-5でも日の目を見ていないはずだ。しかし事実上この「解離タイプのPTSD」がそれを肩代わりしているということではないだろうか?解離症状が特徴的であり、幼少時の慢性の外傷を基盤とするところが、両者では共通しているからである。
この論文をまとめていると、van der Hart 先生がまたすごそうな論文を送ってくださった。今度はこっちを少し読んでみよう。ブログにでも書かない限り絶対読まない論文である。
Dissociative Disorders in DSM-5 Annual Review of Clinical Psychology, 2013, 299-326 これもSpiegel先生を中心とするDSMの解離性障害をまとめた方々の論文である。何しろ今年の発表だから、もう出来たてホヤホヤで、実際に発行されるDSM-5との齟齬はありえないだろう。
イントロダクションから入っていく。解離とは…というよく出てくる定義がまず述べられて、次にいきなり、「解離症状は大きく以下の二つ分かれる」と出てくる。
1.        陽性解離症状・・・意識や行動に突然侵入し、それまでの体験と不連続的であると体験されるもの。(たとえば同一性の断片化、離人体験、非現実体験。)
2.        陰性解離症状・・・一定の情報にアクセスできなかったり、精神機能をコントロールできないと感じられるようなもの。(健忘、構音障害、麻痺など)
フーン、そう来たか。この両者の区別は重要だが、冒頭から論じられるのは珍しい、という印象だ。