2013年3月5日火曜日

パーソナリティ障害を問い直す(22)  


「解」を読み終えて(5

ではBPDの生物学的な基盤はどうかといえば、それは主として気分の変動性と衝動的な攻撃性の二つに特徴付けられるという。以下は BorderlineCentral.com という画期的なサイトのDavid Oliver 医師の記載を参考にするが、患者は対人関係において簡単に失望や怒りを体験する傾向にある。ある研究によれば、BPDの患者たちは幼少時に親からの分離や身体的な痛みへの耐性が低く、癇癪や抑うつなどの反応を示しやすいという。また
別の研究では、BPDの患者たちは、コリン性伝達物質のシステムに異常があり、フィゾスティグミンなどのアセチルコリンの量を高める物質により抑うつを来たしやすいという。(ちなみに抗うつ剤は抗コリン作用が特徴的である。それが抗うつ作用を担っているとはあまり考えられていないが)これらこの研究からもわかるとおり、BPDの問題はむしろ感情や衝動のコントロールの問題として扱われる。これはADのように人の気持ちを理解するという認知的な機能の問題として扱うこととは異なる。
ここでいったん整理するとこうなる。ADなどの神経発達障害は、生まれつきの、あるいは幼児期早期に生じた脳の機能の異常として理解される。他方BPDは情動の障害として理解できる・・・・・・。
いやいや、この整理の仕方に承服できないのが普通だろう。「情動の障害だって、脳の機能の異常でしょ?」といいたくなるだろう。これについては私も良くわからない(というか、正確な答えをもっている人はまだいないのだろう)。ただしこのくらいの説明ならできる。たとえば40代になって発症したうつ病の人、20代で発症した躁うつ病の人が幼少時から明らかに他の子供と違っていた、ということは普通ない。これらの気分障害は通常は成人後に発病するもの、と理解されている。それにうつ病の人も、躁うつ病の人も、躁でもうつでもない時期に会って話をしてみると、いたって普通だろう。そこが神経発達障害(いちいち書くのが面倒になってきたので、今後はNDDと省略!)と違うところだ。NDDの脳の機能異常は常に発現していて、幼少時から精神の機能の異常が明らかであるのに対し、(他の子に比べて明らかに違う!)欝や躁うつ病などの気分障害は、気分の調節やスイッチングの異常であり、その異常は時々しか見られず、しかも成長してから明らかになることが多い。BPDもアクティングアウトなどの只中にあるときを除けば、きわめて普通、というより魅力的だったりする。ただしBPDなどでは、小さいころから状況に誘発される癇癪や衝動性などとしてある程度見られることが多い、というわけだ。
それではこれはほど異なるADBPDの関係を私がなぜ問題にしているのか?それをひところで言えば、KTに見られたような、対人関係上の敏感さや衝動性、攻撃性ということがかなり共通しているからだ。

人を叱る二つのルート
相変わらず書きながら考えているが、そもそもこの両者が似ているというのは、臨床上の実感なのである。彼らは治療者を叱る。(叱られるのははっきり言ってつらい・・・・。大概叱られる落ち度がこちらにあるからなおさらだ)そして考えるのである。あれ、似ているな。BPDの人の場合、普通だと思っていた人が、いきなり叱りつけてくる。ADの場合は、ボタンを掛け違うといつでもお叱りを受ける。