2012年11月2日金曜日

PTSD・解離



このごろ朝晩が冷えてきた。
もう一つの方も、下書きをしてしまう。「PTSD・解離」というテーマである。

PTSDや解離性障害は、主として米国の精神医学において1970年代から注目されるようになった精神科的な障害である。1980年の米国の診断基準DSM-IIIがこれらを正式に採用したことで、その認知度が世界レベルで一気に高まった観がある。その背景には60年代、70年代を通じてベトナム戦争の帰還兵に見られた様々な外傷性の反応への注目があったが、女性の性被害や小児への虐待等の様々なレベルでの外傷の存在への社会の気づきもあった。PTSDも解離性障害も人類に普遍的に存在をしていたと考えられる以上、これらの障害への注目は、私たちの社会がそれを受け入れるための機が熟したことを意味していたと言えるだろう。
 PTSDは生命の危険や身体的な保全を脅かすような外傷体験に続き、外傷を生々しく想起するフラッシュバックや、外傷がいつ襲い掛かるかもしれないと神経過敏になることによる過覚醒、それらと表裏一体となった感情の鈍麻や周囲への無関心といった症状が特徴となる。その症状の性質や程度は外傷の性質にも、それを受けた患者本人の感受性にもよる。その多くは発症後3ヶ月程度で軽快するが、それ以降になると長期化することが多い。深刻なPTSDにおいては、トラウマをきっかけにその人の人生が180度変わってしまい、著しい対人関係や社会適応上の困難をきたすことがある。人を信用できなくなり、社交の場を一切避けるようになり、また抑うつや不安にさいなまれ、精神科の薬が手放せなくなり、事実上の隠遁生活を送るようにすらなる場合も少なくない。ただし軽傷のPTSDに関しては少なからぬ数の人々が、それと自覚して治療を受けることなく体験している可能性もある。
 PTSDは当初は戦闘体験やレイプ被害など、それを体験した場合には誰にとっても外傷となるような深刻な体験を基にしたものと考えられていた。戦争体験がもととなった精神障害については、すでに20世紀初頭に記載があった。しかし現代的なPTSDの理解では、この病態はそれ以外の様々な外傷体験の後にも生じることが明らかになってきた。そしてPTSDの概念も、むしろリスクファクターを多く持つ人により多く見られるものという理解が深まった。具体的にはうつ病や不安性障害などのそのほかの精神疾患を持っている場合、慢性の身体疾患を抱えている場合、幼少時の虐待や肉親との別離等を体験している人たちは外傷体験によりPTSDをそれだけ発症しやすいということである。また発症の原因となった外傷についても、パワーハラスメントや言葉の暴力、事業の倒産、ペットの喪失などの様々なストレスがPTSDに類似の症状を示すことがあり、あらためてPTSDの外傷をどのように定義するのか、従来のストレス-脆弱モデルに従った神経症概念とどのように区別するのか、という課題が新たに生まれるといっていい。さらには幼少時からの繰り返される外傷や捕虜などによる長期にわたる外傷などが、フラッシュバックなどを含めたより深刻で慢性的な対人関係上の障害を生むことも知られており、それをどのように診断基準として取り入れるか(いわゆる複合型PTSDの概念など)という問題もある。PTSDとしてはこのくらいでいいか。