2012年7月16日月曜日

続・脳科学と心の臨床 (50)

 いつかどこかで私は次のようなことを書いた。「もし私が余生に思い残すことがないのなら、私自身の快感中枢を電気刺激してみたいという気持ちがなくはない。」そう、一時間に2000回レバーを押し続けたラット状態になるのだ。その代りにリモコンボタンみたいなものを持って床に就くのだ。

これほど甘美な、そして不埒な空想はあるだろうか?これって、アヘン巣窟に身を横たえてパイプを咥え続けているアヘン中毒患者のようになりたいと言っているのだ。しかしそれにしても、それを人間で実験したトンでもない科学者はいたのだろうか?実は先ほど紹介したバーンズの本はそれについて書いてあるのであるが、その話はもう少し先にとっておこう。いずれにせよ脳の一部に電極を差しこんで何らかの刺激を送り込むということが、ある種の劇的な変化を生むということは、こうして知られるようになったのである。

話をまじめな方向に戻して。DBSの臨床的な応用にはそれなりに面白いストーリーがある。以下もネットからの情報だが、私は一応英語のサイトを主に参考にする。これでも十分安易だが、日本語のサイトの引用だと、だれでもできるだろう。一応人が読みにくく、できるだけソースに近いものを、と考えている。以下の内容はhttp://www.parkinsonsappeal.com/pdfs/The%20History%20of%20Deep%20Brain%20Stimulation.pdfから。

1983年に、MPTPという物質が発見されてからパーキンソン病のDBSの治療に向けての大きな進歩があった。それをサルに与えると人工的にPD(パーキンソン病)を作れる。すると治療が動物実験で飛躍的に進むというわけだ。するとサルのSTN subthalamic nucleus (日本語で視床下核)の刺激でPD症状が劇的に改善するということが分かったのだ。それから臨床研究が進んで、1997年にはアメリカのFDA(日本で言えば、厚労省に相当)で認可が下りるということになったのである。