2012年7月15日日曜日

続・脳科学と心の臨床(48)

DBS(脳深部刺激)への期待


もう10年ほど前、米国にいたころである。あるテレビのドキュメンタリーに釘付けになってしまった。ある男性が見るからにロボットのように固まってほとんど口をきけないでいる。それから体につけた装置のスイッチを押すと、うそのように体がやわらかくなり、普通の話し方になる。そしてまたスイッチを押すと、再びカチカチに固まってしまう・・・・。ドキュメンタリーではそれまで重症のパーキンソン病に苦しんでいたその男性が、治療を行ったことで乗馬もできるようになったというシーンを映し出していた。私はそれまでDBS(脳深部刺激)という治療法については精神科医として常識の範囲で聞き及んでいただけであったが、それがはじめてその驚くべき効果を目にした瞬間だった。
その後に別の番組で、今度はうつ病の患者が同じようにDBSにより、それこそスイッチのオン、オフのようにうつ症状が回復するのを見る機会があった。うつ病といえば精神科領域である。これを知らないわけには行かない。
DBSとは脳の奥深く電極を差し込んで、電気刺激を与えるという治療手段である。考えようによっては、これほど野蛮な治療はないとお考えかもしれない。それはそうである。脳とはおそらく身体の中でもっとも精密で繊細な臓器である。そこによりによって長い針を突き刺すのである!!「大体どこにどの方向でさすのだろうか?それに痛くないのか?出血は???」ただし幸いなことに脳の実質は痛みを感じない。頭痛は脳の血管や髄膜が刺激されたときの痛みであり、脳ミソそのものが痛みを感じるわけではない。それにDBSが可能になったのは、最近のMRIとかCTとかのテクノロジーの進歩によるものだ。一人ひとりの脳について、そのどこにどの部分が位置しているかの3次元マップがかなり正確に作れるようになった。するとどの方向にどれだけの長さで針をさすことで、どこに到達するかということがわかるようになったのである。