2012年7月12日木曜日

続・脳科学と心の臨床(46)


イップス病についてはそろそろおしまいにしようと思っていた時に、注文していた本「イップスの科学」(田辺規充著、星和書店、2001年)が届いた。手軽な本ですぐ読み通せたが、やはりご本人が精神科医でゴルファー、そしてイップス病に苦しんだだけあり、非常に説得力がある。ゴルファーにより様々なタイプのイップスが起き、パターだけではなく、例えばドライバーイップスなどは、スイングでドライバーを振りかぶったまま、クラブが下りてこずにそのまま固まってしまう、ということまで起きるという。ゴルフクラブを振り上げたままウンウン唸っているゴルファーを周囲は怪訝そうな目で見るというわけだ。
 結局これは緊張感を強いられるようなあらゆる活動や職業に現れ、例えば書痙ならwriters’ crampだがこれがタイピストに起きると、タイピストの痙攣Typists’ cramp, 音楽家だと音楽家の痙攣musicians’ cramp、全部まとめて職業痙攣 occupational cramp などと呼ばれるという。その脳科学的な機序としては多分に想像を交えたうえで次のような解説がされている。
「ショートパットを毎回緊張して沈めているうちに、そのストレスが大脳辺縁系を刺激し、神経回路の再構成が起こり、やがて手に痙攣が起きるような神経伝達の閉鎖回路が出来上がるのです。」(74ページ)
この表現は精神科医としてはいまいちわからないが、結局イップスとは次のような病気としてまとめることができる。「一種の脳の配線異常。緊張することで大脳辺縁系の興奮が高まると、その活動に必要な筋肉に異常な信号が発せられてしまい、それが固定して治らなくなる状態。」そして治療としてはその回路を無効にするようなあらゆる手段が取られる。実に涙ぐましいが、それなりに理にかなった様々な方法が田辺医師の本には記載されているのだ。