2012年7月11日水曜日

続・脳科学と心の臨床(45)

信頼のおけるメイヨクリニックのサイトに行ってみよう。(http://mayoresearch.mayo.edu/adler_lab/project2.cfm)それによるとイップスは、たとえば書痙や音楽家の持つ障害(名前は知らないが、たとえば熟練のバイオリニストやピアニストがはやいフレーズを弾けなくなってしまう、という話を聞いた事がある。)と同じであるという。その正体は、「課題遂行時の局所的なジストニア」。と言われても何のことだかわからないという人は多いかもしれない。ジストニアとは、筋肉が一時的に興奮し、硬直することである。イップス病に悩まされるこるファーの手の筋電図を取ったところ、パターでクラブがボールに当たる200ミリ秒前に、前腕を屈曲させる筋肉と伸ばす筋肉が同時にジストニアを起こしているという。そしてこれはたとえば書痙と同じだと言うわけだ。書痙でも、書こうとすると手の筋肉が硬直してスムーズな動きを阻害する。


さて、ではなぜジストニアが起きるのか?ここら辺の説明はまだぜんぜん出来ていないという。ということは手の振るえ → その中でも深刻なものはイップス(あるいはそれに類似の状態) → それは局所的に生じる筋肉の一時的な硬直(ジストニア)ということ以外にはよくわかっていないことになる。ただし治療のひとつとしてはボトックスの注射が有効である可能性があるとかかれている。ボトックスとはボツリヌス菌の毒素を希釈したものであり、それにより一時的に筋肉を麻痺させるわけだ。皮膚の皺をとるために、顔面表情筋に打ったりする、アレだ。


おや、これについて調べていくうちに、音楽家の間での局所的ジストニア(もうFDと表記することにしよう)についての治療法も進んでいるらしい。たとえばファリアス博士(Joaquín Farias, Ph.D.)という人の治療法は高く評価されているらしい。http://www.focaldystonia.net/farias.html


彼自身のサイトには日本語で次のように書かれている。


「ファリアス博士の方法は深部感覚のトレーニングに基づいています。動き自体の深部感覚を発達させることで痙縮は軽減し、望まない緊張や震え、痙攣は抑制され、調整の改善が可能になります。


このトレーニングは進歩的かつ柔軟な方法で動きを解放し、精神運動(サイコモトリシティ)の新しい統合を可能にします。このシステムは試験的ではありますが、すでに局所性ジストニアに苦しむ音楽家や運動選手の他、頸部ジストニア、局所性ジストニア、全身性ジストニア、書痙の患者にも適用され、回復に高い効果が得られることがわかっています。中には完全に回復した例も見られます。」


やはり一種の行動療法的なテクニックが開発されつつあると言うことであろう。