2012年1月28日土曜日

心得18.療法家は患者のポジティブな面の評価を忘れない(1)

精神療法やスーパービジョンを行う上で一番難しいのは、患者ないしはスーパーバイジーのポジティブな面を評価することである。実際のセッションの報告を聞いても、公開スーパービジョンなどに立ち会っても、やはり同様の印象を受ける。非常にしばしば療法家は患者の話の矛盾を突き、言い間違いを指摘してそこに見出される隠された意味を指摘することになる。公開スーパービジョンなどでは、バイジーに対して特にそのような傾向が目立つようである。
そのひとつの大きな要因は、たとえばスーパーバイザーにとっては、そのような間違いや問題点の指摘が、自分の能力を示す上で最も効果的であろうと感じるからである。そしてもちろんバイジーや聴衆も、「あの治療者(スーパーバイザー)はそんなことまで気がついているんだ。さすがだ。」という評価をしがちである。つまりは療法家やスーパーバイザーのナルシシズムの問題である。
もちろん精神療法やスーパービジョンは受ける側が安心感や自信を与えられることのみを目的としているわけではない。患者やバイジーが学ばなくてはならないこと、直面化しなくてはならないことを指摘する場所でもある。ただそのセッションを受ける側の気持ちを考えた場合に、そのたびごとに自信をなくし、自己評価を低めるような機会となるとしたら、それは問題と言わざるを得ない。再び心得1にもどるが、治療者やバイザーが自分では受けたくないような扱いを相手にしているとしたら、そこには倫理的な問題さえ起こりうる。特に先ほど述べた治療者やスーパーバイザーのナルシシズムが絡む場合は、それだけその治療やスーパーバイザーは外傷的となっている可能性があると考えざるを得ない。
ここで心得として、私は「患者やバイジーのよい点を見つけよ」、という言い方はしたくない。ただ自分は患者の長所と短所、評価すべき点と問題点の両方を見ているかについて常に考えよ、という忠告だけにとどめたいと思う。