Q:そこらへんの文化的な事情はよくわかりませんね。急に話が難しくなった感じです。
A:ごめんなさいね。私の得意の知性化が出てしまいました。
Q:ところで先生の本を読んでいて、対人恐怖の人は著名人にも多い、というようなことが書いてありました。対人恐怖と言うと、病気で苦しむものという印象がありますが、ちょっと意外ですね。そこらへんをもう少しお聞かせください。
A:これはちょっと我田引水かと思いますが。つまり自分が対人恐怖だとそれは実は優れた素質なんだ、という風に言いたくなるというのが、私たち精神科医にはあるかもしれません。でもこの発想は、内沼先生の影響です。
Q:内沼先生、・・・・ですか?
A:その「・・・ですか?」の間合いが、「江」の上野樹里の言い方に似てますね・・・。まあともかく、私には対人恐怖のお師匠さんがいて、それがかつて帝京大学の教授だった精神科医の内沼幸雄先生なのです。
Q:内沼先生が対人恐怖というわけなのですか?
A:いや、そういう風に聞こえたとしたら間違えです。「対人恐怖学」のお師匠さんです。彼の名著「対人恐怖の人間学」を読んだことが、私が精神科医としていわゆる精神病理学を学ぶ出発点だったわけです。その本の中で彼が、三島由紀夫やサルトルやニーチェを引いて、彼らの文学にいかに対人恐怖的な心性が働いているかを論じたのです。