このブログを始めてもう9カ月になるが、一つ私の中で変わってきたのは、漢字の変換ミスに気をつけるようになったことだ。最初は「変換ミスも含めて自然体である。このままでいいんだ!」、などとうそぶいていたが、何しろ読者が20人になってしまったということは、心を入れ替えなくてはならない。変換ミスや誤字を放置するのは、シャツがはみ出ていたり、ネクタイが曲がったままで人前に出るようなものだ。それは20人の読者に失礼ということになるだろう。
この「新型うつ病の本質に迫る」という表題は、はっきり言ってはったりである。「本質に迫るぞ」と言いつつ、自分を鼓舞しているにすぎない。私がこのシリーズで何を書いているかというと、その短期的な目的は3月のあるセミナーで発表する内容をこうやって書きすすめながら考えていくことだが、長期的な目標は、いつもと同じである。それはそれはマイノリティ、ないしは世の中で不当な扱いを受けている少数の人々の代弁者となることである。一般人がある比較的安易な思考回路を用いて、物事の深層を軽視ないし無視して一部の人々を非難し、断罪することについて、「ちょっと待ってよ!」と言うことである。もちろんマイノリティを擁護する自分の立場もまたマイノリティであることは承知である。だから私の発言に対する典型的な反応は「えっ、あなたこと何を言っているの?」であることを想定している。
うつというテーマに関しては、私が日常臨床で、患者さんたちというマイノリティの人々と出会っている以上、主張すべきたくさんのテーマがある。そもそも「うつ病」ということ自体が一般的に誤解されている、ということを昨日までの7回のシリーズで論じてきた。今日からは、「新型うつ病」として「不当に扱われている人たち」の味方をしたい。
最近の傾向は、いわゆる「新型うつ病」という診断を口実に怠けている人たちが多い!という声がマジョリティになりつつある。そうすると私はマイノリティの側に立ち、「新型うつ病だって、しっかりうつ病ですよ」とか「新型うつ病って、実体はないのですよ」ということになる。
ところでこのテーマについて、格好の参考資料を見つけた。「こころの科学 2007年、9月号 職場復帰 うつかなまけか」ドンピシャ、ではないか。
ところでこの本、取り寄せたばかりでまだ読み込んではいないが、一部の識者たちの間では、従来のうつ病のタイプにあわないうつ病、「退却神経症」(笠原嘉氏)、「逃避型抑うつ」(広瀬徹也氏)「未熟型うつ病」(阿部隆明氏)、「現代型うつ病」(松浪克文氏)などの名前で呼ばれるようになってきている、いわば「怠け型」とでも言うべきうつ病が増えてきているという見解が共有されていることは読み取れる。この特集では、牛島定信先生、斉藤環先生、そして「心の科学」のこの特集の編者でもある松崎一葉先生もこのような見解を示している。そこで現れている特徴を私なりにまとめるならば、次のようになる。
いわゆるメランコリー親和型に見られるような、几帳面で働き者、完璧主義といった様子が見られず、むしろ自己愛的、他者依存傾向が強いなどの特徴が見られる。また職場を休んでも、アルバイトを始めたり、趣味に精を出したりといった特徴が見られるという。またケースによってはうつ病という診断をいわば口実のように使い、いざ仕事となると急に症状を訴えるといった好都合な振る舞いを見せる、などなど。全体的にネガティブな印象で描かれているのが一般的といえる。
さて私自身はこの種のうつが増えているかと問われれば・・・・。実はよくわからないのである。何しろ私の臨床経験のもっとも大事な部分である17年間がごっそり抜けている。もちろんこのようなケースは何人か扱っている。ただ昔に比べて増えているかどうか、ということについては実感がない。ずっと日本で仕事をしていたのなら、この30年の傾向はある程度つかめるのかと思うが、それは出来ない話である。ただ次のことだけは言える。
ひとつには、数字からして否定の仕様がない、「退却神経症」的なケースの増加である。何しろ引きこもりの数の増加が半端ではない。日本人の意識構造や、その背景となる社会構造に何らかの変化が起きているとしか考えられない。(ちなみに引きこもりは日本だけの傾向ではない。たとえば韓国にも顕著であるという事情を、斉藤環氏の講演から聞いた。)これらの人たちと「怠け型」とはプロフィールが似ている。ということは後者も増えている、と考えるべきではないか、とは確かに思う。
もうひとつは、うつ病の診断件数の明らかな増加。2000年以降日本でもSSRIが使用されるようになってきている。これは薬を処方する主体を確実に、精神科医から診療内科医、一般内科医へとシフトさせているであろう。それと共に「うつ病」の診断書が出される患者さんも増していることになる。するとその水増しされた分(おっと、「正当に診断されるようになった分」、と言い換えるべきだろう)として考えられるのは・・・・・・。
そしてもうひとつは、米国で散々聞かされていた、bipolar type II (双極性二型)の話。これは最近増えてきた、というのではなく、これまで見過ごされてきた精神疾患ということで多くの臨床家が指摘するようになってきている。これと日本の「新型」の増加説がなにやら関係している気がする・・・(続く。)