2010年6月7日月曜日

PESとバランスシートという考え方(チビの後ずさり)

週末は精神分析学会の運営委員会三昧。いろいろ考えることがあった。なにか「●床心●士」の資格が「心●士」になる可能性が高まっているとか。その動きの中心にある先生方の話だから、そうなのだろう。一体どうなってしまうのだろう?学生は一生懸命勉強しているのだが・・・・。
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ところでBPDと医原性の問題は、このブログに頼ることはやめて、「あとは自分でやる」ことにした。今日は私のこだわりのテーマに戻る。PES(快感査定システム)である。これと「解離」のテーマを交互にやらせていただく。
PESについては実は懸案がある。それは27年前に書いた原稿に戻ることだ。1983年の秋に書き始めた原稿を、土居健郎先生に見せて、「スルー」されてしまった。しかしこのテーマについて資料もないままに一生懸命に考えていたのもこの時期である。手描きでかなりなお下読みにくい原稿の縮刷コピーを、この27年間持っているが、とても開いて読む気になれない。
しかしそのPESについての考えを、最近になって文字にすることがあった。「忘れる技術」(創元社、2006)である。もともと注文を受けて書き下ろした本で、私の他の本と同じように売れなかったが、そこに「心のバランスシート」というアイデアを出した。「心の側から見た、忘れられないわけ」という章においてである。
「これは私たちの頭の中に備わっている認知プロセスを図式化したもので、人が何事かを忘れられ無くなっている状態の、少なくとも問題の一部を説明することができるのです。私たちの損得勘定は、心のバランスシートによって、常に自動的に計算されているのです。」
として、例えばAさんに対する心のバランスシートを考えた。借方の欄には、Aさんに与えた危害や、Aさんから受けた恩恵が入る。貸方の方には、Aさんから被った被害、Aさんに与えている恩恵が入る。これが計算されて、「Aさんに対する気持ち」のあり方を決定する。つまりAさんに対する恨み、後ろめたさ、仕返しをしたい気分などは貸借対照表のバランスと考えることができよう。
おそらくこの起源は、動物としての私達の来歴にある。自分に害を及ぼしてきた相手を自動的に察知して避ける、という傾向である。これが適切にできる個体はそれだけ生存の確率が高くなる。そうか,我が家の犬チビが私の視線を避け、近づくと後ずさりするのには、それなりの理由があったのだ。