2010年5月10日月曜日

(承前)
ところでこのIPAという発想は職業柄、非常に情緒不安定で、少しのことにも油を注いだ火のごとくメラメラと反応したり、他人のちょっとした言動や態度にいきなりキレて物を投げつける、暴言を吐く、といったケースを見ているからであろう。いわゆるEUP(情緒不安定性パーソナリティ)の範疇に属する人たちにそれは特徴的であるが、特に診断に該当しない人たちの中にもたくさん見られる。それらの人たちの多くは、それを生れながらに抱えているが、幼少時からすでにその情緒不安定さがみられる場合と、それが思春期を過ぎたあたりから顕著になる場合があるようである。私はかねがねこの後者のタイプを不思議に思っていたが、その「片鱗」は注意深く観察しているならば、幼少時にも見られるであろう、というのが私の考えである。
ただし非常に多くの場合、親は子供の情緒不安定な様子をかなり割り引いているか、あるいは思春期以降のあまりの変貌ぶりを印象付けられていて、それ以前のちょっとした気がかりなサインを忘れてしまっているという可能性がある。「うちの子はおとなしい、ごく普通でしたよ。」親とは特に自分の血を分けた子供については、幼少時にみられる問題を過大視しすぎる場合もあれば、見事に見て見ぬふりをする場合もある。「自分の遺伝子を受けついているからこんなことが起きるのだろうか?」などと考える場合にはなおさらなのだ。F ちゃんにしても、彼女の両親は彼女の気がかりな行動にほとんど注意を向けていないようであった。もう今ではすっかり成長しているはずのF ちゃんがもし「情緒不安定性…」であり、彼女の幼少時の様子をご両親が聞かれたとしたら、彼らはきっとこんな感じで答えるはずなのだ。「うちの子は時々やんちゃはしても、それ以外はごく普通でしたよ。」