2026年1月4日日曜日

PDの精神療法 書き直し 12

 2)自己愛性PD

自己愛性PD(以下、NPD)の患者はその性質上自発的に精神療法を求めることは多くはなく、しばしば他の精神疾患に伴う形で治療場面に表れることが多い。しかし自己愛の問題を抱える患者は多く、その治療論に関する歴史的な経緯を知っておくことは重要であろう。
 NPDに対する精神療法的アプローチはBPDの治療理論と共に発展した。1970年代よりHeinz Kohut (1971) Kernberg (1975) がそれぞれかなり異なる治療論を提出して論争となったという経緯がある。Kohut は自己愛を本質的に健全なものと考え、患者が幼少時に親から十分な共感を得られなかったことによる「自己の断片化」がその病理につながると考えた。そして治療においては患者の体験の肯定的な側面により多くの注意を払い、共感的なアプローチの重要さを強調した。また治療の目標は適切な「自己対象」を見出す助けとなることであると考えた。
 それに対してKernberg は患者の示す理想化をスプリッティングを伴う防衛とみなし、患者が有する貪欲さと要求がましさに注目し、それらに対する直面化の重要性を説いた。Kohutと異なり、Kernberg はむしろ患者の示す否定的な側面への直面化を重視することになる。
 このようにKohut と Kernberg はやや対照的な治療論を展開したが、現実の治療ではこれらのいずれかに偏ることなく、患者の言葉に耳を傾け、転移と逆転移の発展を観察し、その時々の介入に対する患者の反応に注目しながら治療を進めていくべきであろう(Gabbard, 2014)。なおNPDの治療に関してもメンタライゼーションの見地からの治療の有効性が示されている。(Ritter K, Dziobek I, Preibler S, et al 2011, Choi-Kain, LW. Sebastian Simonsen,S et al: 2022)

3)CPTSDに関連したパーソナリティ傾向

 近年では幼少時のトラウマがPDのスペクトラムの根本に存在しているとも言われる(Lanius, et al、2010 ショア書評本の435)それに関連して近年ICD-11(2022)に記載されたCPTSDにおいては、PTSD症状と共にいわゆる自己組織化の障害(Disturbance of Self-Organization、以下DSO)、すなわち感情のコントロールの困難さ、否定的な自己概念、対人関係の困難さが診断基準として挙げられている。これらはPDに準ずるものと見なすこともできよう。CPTSDの治療アプローチとして我が国に紹介されたものを二つ紹介しておく。

 ピート・ウォーカーPete Walker は自身がCPTSDの体験を持ち、治療者としても長年このテーマに取り組んできた立場から、CPTSDは単なる「反応」ではなく、持続的な対人侵害や見捨てられ体験を反映した習慣性の反応として理解されるべきだとする。そしてCPTSDの典型的な特徴として、感情調整困難・自己価値の低下・対人関係での不安・羞恥・怒りの爆発などを挙げる。これはPTSDの標準的症状(再体験・回避・過覚醒)を超えて、人格や相互関係のあり方全体を変える影響を持つとする。ウォーカーは、CPTSDの回復において次のような要素を重視している。それは安全な治療関係(安全基地の提供), 感情フラッシュバックの理解と管理などである。またCPTSD特有の emotional flashbacks(感情的フラッシュバック)は、過去の関係パターンに侵されるように現在の生活に現れる。これを理解し、自覚→距離化→対応スキルへとつなげることが治療の中心となる。
ウォーカーはCPTSDの多くの問題を「アタッチメントの不全」と関連づけている。これは、幼少期の不安定なケア経験が人間関係の学習機会そのものを奪った影響として説明される。身体面や情動面への介入 ただ認知を変えるだけでなく、身体感覚・情動体験を統合し、自分自身を取り戻すプロセスが中核にある(実際のスキルとしてはジャーナリング、呼吸や緩和技法、情動ラベリング等が用いられる)。 アリエル・シュワルツ(Arielle Schwartz)はCPTSDに対する統合的・身体と心をつなぐ治療モデルを提示している。彼女は複数の治療技法を組み合わせた マインドボディアプローチを提案する。 シュワルツのアプローチは、CPTSDをただ認知の問題としてではなく、身体の反応と精神の連動として治療することに重きを置く点が特徴的である。トラウマは単に思考や感情の問題ではなく、自律神経や身体感覚に刻まれているという立場から、マインドフルネス、ポリヴェーガル理論の応用、身体介入などを統合する。