本号(●●の特集号)の中で、本章は「Ⅲ さまざまな精神疾患に対する精神療法」の第13番目として位置づけられる。扱う対象はパーソナリティ障害であるが、他章の統合失調症やパニック症、摂食症などと比較して、DSM-5に従っただけでも10の障害を含む大所帯であり、とても網羅的な解説をする余裕はない。そこでまずPDの精神療法についての概説を述べ、その後に境界パーソナリティ症、自己愛パーソナリティ症、発達障害および複雑性PTSDに限定して各論を論じることにしたい。(発達症および複雑性PTSDはパーソナリティ障害としては分類されないが、これらが本章で特筆すべき価値はあるものと考える。)
パーソナリティ障害の精神療法:概論
見立てと診断
パーソナリティ障害(personality disorder, 以下PD)の分類に関しては、現在DSM-5(2013)の第Ⅰ部(本体部分)に示されたいわゆるカテゴリカルモデルと、DSM-5の第Ⅲ部及びICD-11(2022)に示されたディメンショナルモデルが並立して存在する。それぞれのモデルで提示されているPDの分類にはかなりの相違があるが、そのことが示すのはPDに関する概念上の混乱というよりは、そもそもPDの臨床的な表れが極めて多様性や流動性を帯び、その分類が容易ではないという現実を示していると言えよう。またPDを有すると考えられる患者の多くは併存症を有しているため、その治療目的や改善の表れを論じる事の難しさが加わる。 インテークでは、医師はその抱えている問題の全体像の把握を試みる。患者はそのPDにより自ら苦痛や社会的、職業的な困難さを抱えていることになる(DSM-5)。しかし実際に訪れる患者は「私には〇〇などのパーソナリティの問題がありまして・・・・」と訴えるわけではない。大抵は具体的な対人関係に悩まされているという事情や、周囲(主治医や家族)から受診を薦められた経緯を話すことから始まるが、自分が有している可能性のあるパーソナリティの問題には比較的無自覚である。そしてPDの全貌はこれまでのヒストリーで繰り返されているパターンから推察されたり、治療関係の中で再現されたり、家族や同僚などからの副次的な情報により初めて明らかになったりする。