2025年12月27日土曜日

PDの精神療法 書き直し 5

 自己愛性PD

NPDの患者は自発的に精神療法を求めることは多くはなく、しばしば他の精神疾患に伴って治療場面を訪れる。しかし自己愛の問題を抱える患者は多く、その治療論の歴史的経緯を知っておくことは重要であろう。自己愛性PDに対する精神療法的アプローチはBPDの治療理論と共に発展した。1970年代よりHeinz Kohut (1971) Kernberg (1975) がそれぞれかなり異なる治療論を提出して論争となったという経緯がある。Kohut は自己愛を本質的に健全なものと考え、患者が幼少時に親から十分な共感を得られなかったことによる「自己の断片化」がその病理につながると考えた。そして治療においては患者の体験の肯定的な側面により多くの注意を払い、共感的なアプローチの重要さを強調した。また治療の目標は適切な「自己対象」を見出す助けとなることであると考えた。
 それに対してKernberg は患者の示す理想化をスプリッティングを伴う防衛とみなし、患者が有する貪欲さと要求がましさに注目し、それらに対する直面化の重要性を説いた。Kernberg はむしろ患者の示す否定的な側面への直面化を重視することになる。しかし現実の治療ではこれらの治療論のいずれかに偏ることなく、患者の言葉に耳を傾け、転移と逆転移の発展を観察し、試みの介入による患者の反応に注目しながら治療を進めていくべきであろう(Gabbard, 2014)。なおNPの治療に関してもメンタライゼーションの見地からの治療の有効性が示されている。(Ritter K, Dziobek I, Preibler S, et al 2011, Choi-Kain, LW. Sebastian Simonsen,S et al: 2022)

Ritter K, Dziobek I, Preibler S, et al:(2011)  Lack of empathy in patients with narcissistic personality disorder. Psychiatry Res 187:241-24.
Choi-Kain, LW. Sebastian Simonsen,S et al: (2022) A Mentalizing Approach for Narcissistic Personality Disorder: Moving From “Me-Mode” to “We-Mode” American Journal of Psychotherapy. 75:38-43.