2025年11月15日土曜日

ヒステリーの歴史 大詰め 1

この論文、いよいよ締め切りが迫っているが、まだまだおかしいところがある! 

FNDと心身二元論

 この変換症からFNDの移行の持つ意味について改めて考えたい。先ずはFNSという用語の意味についてである。このFNDの「F」とは機能性 functional の意であり、器質性 organic の対立概念である。すなわち「神経学的な検査所見に異常がなく、本来なら正常に機能する能力を保ったままの」という意味である。したがってFNDは「今現在器質性の病因は存在しないものの神経学的な症状を呈している状態」という客観的な描写に基づく名称ということが出来よう。それに比べて変換症という概念には多分にその成立機序やその成立に関する憶測が入り込んでいたことになる。その憶測ともいうべき症状が変換症の診断基準から除外されたのがFNSであるが、それらを以下にまとめよう。

まず診断基準としてはDSM-Ⅲ,IV の以下の項目が削除された。

B項目 心理的要因が存在すること

C項目 症状は意図的に産出されないこと

D項目 症状は身体疾患によっては説明されないこと

なお、DSM-ⅢではB項目に含まれていた「疾病利得が存在すること」はDSM-IVではすでに削除されている。

 このFNSへの移行はどのような意味を持っているのだろうか。FNDの概念の整理に大きな力を発揮したJ.Stone (2010) の記述を参考にしよう。彼は本来 conversion という用語は Freudの唱えたドイツ語の「Konversion (転換)」に由来し、彼は鬱積したリビドーが身体の方に移される convert ことで身体症状が生まれるという意味でこの言葉を用いたとし、問題はこの conversion という機序自体が Freudの 仮説に過ぎないのだという。そしてそれは心因(心理的な要因)が事実上見られない転換性症状も存在するからであり、この概念の恣意性や偏見を生む可能性を排除するという意味でもDSM-5においてはその診断にはこのB項目の心因論を排したFNSという概念や名称が導入される必要があったのである。