2.男性の性の自己強化ループの仕組み
トーツの説によれば、男性の脳で起きている二つのシステムのうち、システム2の制御的抑制的システムが、自動的、衝動的なシステム1に負けることで「普通の男性の性加害性」が生じる可能性があるわけだが、いったんこの動きが始めるとなかなか抑えが効かなくなってしまうという問題がある。いわば加速度がついてしまい、途中でやめることが難しくなる。これは飲酒やギャンブルと少し違う部分だ。
例えば酒なら、それまで我慢していても、一口飲めば止まらなくなるということはある。しかし飲めば飲むほど「もっと!もっと!」というわけではない。私は下戸なのでこの体験をしたことがないが、いい加減に酔えば「まあ、このくらいにしよう」となるのが普通ではないか。最後までいかないと止まらないということはない。かなり深刻な飲酒癖を有する人も、大体飲む量は決まっている。もちろん生理的な限界ということもあり、そもそも血中濃度が増してアルコール中毒状態になり意識を失なえば、もうそれ以上酒を飲み続けることはできなくなる。でもそうなる前に酔いつぶれて寝てしまうのが普通なのだ。
ではギャンブルはどうか。これもちょっとやりだすと止まらないということはあるだろう。しかし最後にオーガズムに達するまで続けるということはない。ではだんだん使用量が増えていくコカインなどはどうか。これは同じ量の満足を与えてくれるコカインの量が増えていくといういわゆる耐性という現象だが、最終的に絶頂に達するまで止められない、というわけではない。むしろ一定の使用量を超えると失神や呼吸困難に至り、その先には死が待っている。
ところが普通の男性の性加害性は、いったんオーガスムに向かって突き進み出すと、抑えが効かなくなるということと関係しているようである。一体どうなっているのだろうか。それが後に述べるポジティブフィードバックとしての性質である。
例えば通常の男女の性的な身体接触について考えよう。最初は髪を触り、そして指先で触れ合い、徐々に手を深く絡め合い、それから腕を組み合い、肩を抱く、・・・・という風にエスカレートする。それはあたかも髪をなで続ける、あるいは指を絡ませ合う、というだけではすぐに慣れてしまって満足度が得られなくなり、さらに敏感な部分への接触へと徐々に進んでいくことでその快感や興奮を維持できるのである。
性的サディズムを例にとる。最初は相手を叩く,軽く引っ搔くというだけで満足するかもしれない。しかしさらにそれに飽きてしまい、相手にかみつく、跡が付くほど引っ掻く、という風に加害性がエスカレートする。しかしそれでも徐々に興奮が薄れ、さらに深刻な加害行為、さらに深刻な加害行為、例えば強くかみ、皮膚が切れ、出血するという傷害行為に至らないと気が済まないであろう。そこでようやくオーガスムに達するのだ。
男性の性愛性のはらむこの問題は、大きな加害性を秘めていることはお分かりだろうか。一番最初の刺激、例えば肩をポンポンたたく、頭をなでる、軽くハグする、というだけでは、相手はその性的な意図に気が付かず、特に拒否をしないかもしれない。しかし男性はそこで得られる軽い興奮を維持できなくなる。興奮を維持するためには、性的な侵入を続けなくてはならないのである。そこで「言葉の混乱」はすでに生じており、それに気が付いた時には両者には身体接触が始まり、進行しているのである。
そこで私がここに提示するのが、二つのモデルである。これらはある意味では重複しているため、まとめて「自己強化ループモデル」と呼ぶことが出来るが、一応別個のものとして論じることから始める。ちなみにことわるまでもないが、これらは性依存や強迫的性行動とはいちおう別の議論である。すなわち性依存でもなく、強迫的性行動でなくても、問題となるモデルであるが、それらとも深く関係している可能性があることが、次第にわかってくるだろう。
この自己強化ループモデルの特徴を一言でいえば、性行動はいったん始動すると、途中で止めることが難しい、という現象を説明するモデルであるということだ。
ここで改めて、この自己強化ループモデルを構成するのが以下の二つの理論である。
ポジティブフィードバック理論
B. インセンティブ感作理論 incentive sensitization theory (IST)