2025年10月12日日曜日

解離症の精神療法 6

  問題はこの第2段階目である。ここでは様々な教科書が異口同音に、「トラウマワーク」が述べられる。それはそうなのだが、そう簡単ではない。これが出来ないと第3段階に行けないのではないか、という気になってしまう。しかし改めて「トラウマワーク」とは何か?それがややこしく、とても奥が深い。それを短い論文でどこまで書くことが出来るであろうか。

第2段階 トラウマ記憶の直面化、ワーキングスルーと統合

安全な治療環境が整うに従い、それぞれの人格が抱えたトラウマ記憶が語られたり、トラウマ記憶のフラッシュバックが生じるということが起きやすくなる場合がある。それらのトラウマ記憶は夢によって再現されたり、日常接するメディアや映画、小説などに触発されることもある。治療者は適切な判断をもとにそれらが再外傷体験を導かないように注意しつつ、その詳細が表現されるに任せたり、必要な勇気づけを行うことで、トラウマ記憶が徐々にナラティブ記憶に改変されることを手助けすることが出来るであろう。そしてそれによりフラッシュバックの頻度が減り、特定の人格による行動化が抑えられることにつながる可能性がある。ただしトラウマ記憶を扱う際には、人格ごとにそれについての意見が分かれたり、セッションの前後で患者が不穏になる可能性を認識すべきであろう。 なおこの第2段階でトラウマを扱うことが治療者の義務のようにとらえられることで、それが患者にとっての負担になることは避けなくてはならない。トラウマを扱うということはトラウマ記憶を抱えた人格と交流するということであり、その詳細を探る事では必ずしもないことに治療者は注意すべきであろう。