2025年10月7日火曜日

遊戯療法 文字化 6

3.遊びのプロトタイプとしての

    「じゃれ合い(RTP)」について


 ここで遊びについての科学的な研究について論じたい。その中でも特筆するべきなのは、いわゆる「じゃれ合い,頭文字でRTP」と呼ばれるものである。これが哺乳類以上の動物に非常に広くみられ、科学的な研究の対象になっているのである。
 このジャレ合いとは英語で rough and tumble play (RTP)という現象として知られているが、このRTPには日本語の定訳はない。しかし「じゃれ合い 」という表現がぴったりくると考える。

これはおそらく哺乳類一般に広く見られる現象で、もちろん人間の子供もしょっちゅうこれをやる。しかし何よりも好都合なのは、ラットが非常にこれを好み、人間がその相手をしながら観察し、データを取ることが出来るという点なのだ。そしてじゃれ合いがなぜこれほどに動物に遍在するのかについては、いくつかの説があり、それは実験データにより裏付けされている。それらは
1.RTPが精神の安定、不安の軽減につながるから。つまりRTPを十分に行ったラットほど攻撃性をコントロールできるという研究結果が報告されている(Siviy, 2016)。
2.将来の闘争や性行動の雛形として意味を持つから。事実追っかけ合い、手加減した殴り合いをするしぐさなどは、まさに戦いのための練習といえるであろうし、ピン止め行為pinning という相手を押さえつけるという動きは性行為の真似事や練習という意味があると言われている。
3.ジャレ合いは快感につながるから。実はこれが一番重要かもしれない。RTPはそれが楽しいからこそ子猫も子犬もラットも、そして人間の子供も延々と続けるわけである。そしてラットの研究では、「遊びの脳内回路」があり、それが系統発達的に受け継がれてきているのだろうということが分かっている。Sivy らの研究によれば、ジャレ合いによりラットの脳の中で興奮する部位があり、それがいわゆる中脳水道周囲灰白質(PAG)である。

Siviy SM. A Brain Motivated to Play: Insights into the Neurobiology of Playfulness. Behaviour. 2016;153 (6-7): 819-844.