全体をまとめよう。FNSは基本的にはヒステリーという精神的な病として扱われた歴史についてはこれまでに十分示した。それは体の症状でも心の問題が原因である、と考えられていたからだ。そして精神医学の診断基準も概ねそれに沿ってきた。それはある種の心因ないしはストレス、あるいは疾病利得があり、それが精神の、そして身体の症状をきたすという性質を持っているものと理解されていた。これはそれまでの疾病利得一辺倒の、どちらかと言えば詐病に近いような扱いからは一歩民主化されたということが出来るであろう。
その間いわゆる解離性障害についての理解は大きく進んだと言える。そしてそれを精神症状を来すものと身体症状に分けるようになった。いわゆる精神表現性解離と、身体表現性の解離というわけである。Psychoform and somatoform dissociation という考えだ。(Van der Hart O, Nijenhuis ERS, Steele K. The haunted self. Structural dissociation and the treatment of chronic traumatization. New York: W.W. Norton & Company; 2006.) そのうち精神表現性の症状をきたすものについては、それは精神医学の内部で扱われることになる。解離性同一性障害などはその例だ。ところがそこに身体症状が絡んでくる転換性障害だと、それが「現実の」、ないしは「本当の」身体疾患との区別が難しくなる。その際そこに心因があること、疾病利得が関係していることが、「本当の」身体疾患とは違うという了解があった。それが2013年以前の考え方であったことは上に述べた。 ところが研究が進むうちに新たなことが分かった。疾病利得がなくても身体症状が起きるだけではなく、心因がなくても身体症状が生じる(あるいは本来の身体症状が悪化する)ことがあるということなのだ。この状態は一言で言えばMUS(医学的に説明のつかない症状)ということになる。このMUSの概念について考える上で一つとても参考になるのが、いわゆる③「第3の痛み」と称されるいわゆる「痛覚変調性疼痛 nociplastic pain 」である。これが脳神経神経内科の分野で提唱されることになったのは、画期的な意味を持っていたと言えよう。