2025年8月30日土曜日

男性の豹変の問題 2

 次に②の性依存についてである。こちらは「一見普通の男性の豹変」に関係するだろうか? 性依存に関しては、当人を満足させるようなパートナーは不在である場合がほとんどだろう。一日中オーガスムを追い求めることを止められない男性の相手を務められるパートナーなどは普通は存在しない。したがって性依存はそのままポルノ依存などの形をとる事になり、他人を巻き添えにするというよりは、自分で苦しみ、その結果として家族なども巻き込むことになる。ギャンブル依存などと違い、金銭的な問題が発生しにくいことも不幸中の幸いと言えなくはない。(ただし毎日の風俗通いを止められないという場合には別であろう。)ちなみにこの②について、それが一つの疾患としてどの程度認定されているかについてはいろいろ議論がある。いちおうWHO発行のICD-11(2022年)には、CSBD(compulsive sexual behavior disorder 強迫性性行動症)として記載されている。ところがもう一つの世界的な精神科の診断基準であるDSM-5にはそのような病名の記載はない。巷で言われる性依存の状態は、通常の依存症、すなわち薬物やギャンブルや買い物などの依存症と同類に扱うことが出来ないというのがDSM-5の立場なのである。(注)

さてこの性依存の問題、実は「男性の豹変」の問題と絡んでくるかもしれない。そこで改めてCSBDの定義(ICD-11)を読むと

(1)繰り返し制御できない性的衝動 (性的な思考や衝動がコントロールできず、頻繁に性的   行動を繰り返す)
(2)個人の生活や社会的機能に悪影響を与える (仕事や人間関係に支障をきたすほどの性的   行動を続ける。)
(3)性的行動を抑えようとしてもできない (自分でやめようとしても制御できない。)

これらの問題が少なくとも半年続いているとこれに該当するというのだ。

さて「男性の豹変」の場合これに該当するかと言えば、微妙だが、かなりこれとは異なる印象がある。「男性の豹変」としての行動は繰り返し制御できない衝動に駆られるのだろうか。回数としてはさほど多くないが時には性的な衝動に負けてしまうというところが、痴漢行為やポルノ依存とは異なるところだ。さらに言えば、「男性の豹変」には作為的な部分がある。その欲望を制御できないというわけではないが、どこかに機会を狙い、相手を拐すというニュアンスさえもある。しかしそればかりだとまさに計画性を持つ性犯罪者ということになってしまうが、そこに自制が効かなくなるという部分が混じった状態と言えるかもしれない。最初は性被害を与える意図は左程なくても、途中から抑制が外れるというところがある。
私がそれらの事例を見聞きして思うのは、彼らの豹変後の性加害がどこまで意図的で、どこまで不可抗力的なのかが分からないところがあることだ。もう少しいえばそれは相手とのじゃれ合いやせめぎあいや駆け引きのニュアンスがあるものの、途中から歯止めが効かなくなるというパターンが多いのではないか。するとやはりこの②の性依存とも区別して考えなくてはならないであろう。ただし途中から歯止めが効かなくなるという点に関しては②に類似する部分があると考えていいであろう。
それともう「男性の豹変」が性依存と異なる面がある。それは一般に依存症の場合には繰り返すことでその依存が深まるという要素がある。その行動にハマってどんどん抜けられなくなるという傾向があるのだ。しかし「男性の豹変」の場合、それほどの切迫感はない場合が多いのではないか。