「週一回」の地道な見直しが続く。もうこの論文を書きだしてから二月以上たっている気がする。
「週一回精神分析的サイコセラピー」― 現代的な立場からの再考
1.はじめに
この論考は我が国の精神分析学の世界において過去10年あまり継続的に議論が行われている「週一回精神分析的サイコセラピー」というテーマに関して、 現代的な精神分析理論の立場から再考を加えることを目的としている。
このテーマについての議論は精神分析学会で一つの盛り上がりと学問的な進展をもたらしている。その一連流れを俯瞰した場合、そこに様々な議論が存在するものの、全体としてある方向性や考え方が一定の支持を得ているようである。それは精神分析本来の意義や有効性が発揮されるためには、週4回以上のセッションによる精神分析を行うことを前提としたものであるというこであり、週一回という低頻度の精神療法を同様に精神分析的に行うことは非常に難しいという考え方である。それは論理的に一貫し、整合性のある議論と言える。しかし一方では精神分析理論を学び、その影響下にある治療者が行う治療的な関わりの大多数が、週一回ないしはそれ以下の頻度で行われているという現実がある。そしてそれらの低頻度の精神療法において精神分析的な理解やそれに基づく技法の有効性が制限されるとしたら、それは非常に残念なことと言うべきであろう。
現代の精神分析は近年大きな理論的広がりを見せ、いわゆる治療作用に関しても様々なモデルが提案されている。そして海外の文献を参照しつつ、より広い視点から週一回の精神分析的な精神療法の妥当性について検討を加える価値があろうと考えたことが、筆者が本稿をまとめるに至った主たる動機である。
2.「週一回精神分析的サイコセラピー」をめぐる我が国の議論
「週一回精神分析的サイコセラピー」というテーマに関しては、それを包括する内容の学術書(高野、山崎編、2024)が近年出版され、またいわゆる精神分析的サポーティブセラピー(岩倉ほか、2023)の議論も深くかかわっている。我が国における若手の精神分析的な臨床家たちが共通のテーマについての議論を重ね、一つの流れを生み出していることは非常に心強い限りである。